第15話 ラーメン店
中間テストが始まった。
一日中テストではないぶんまだいいが、午前中は丸々、答案用紙を眺めては埋める作業に没頭することになる。
そして回答が埋まったので、提出。
チャイムを待って一斉に皆、教室から退出を始める。
「あーかったりぃ」だの「やっと終わったー」だの色んな声が聞こえるが、今日の予定が消化されただけで、テストはまだ2日もあるのだ。はぁ。
まったく出来てない、というわけではないが、まあ、赤点を取るようなこともおそらくないだろうから今日の分はこれでいいだろ・・・。
「お昼どうする?」
高橋が聞いてくる。
「学食やってんだっけ」
「さあ、テスト期間中どうだったかな・・・覗いてみるかい?」
「・・・いや。そうだ、ラーメン屋でも寄ってかないか?」
「いいね!たまには」
そんな訳で、俺と高橋は今、宮川市内の某中華料理屋に居る。
大手レストランだとか有名店ではなく、個人経営の割と小さな店だ。
『中華料理 大飯元』とかいう名で看板が出ているがメインはやはりラーメンだろう。
だって店内、ラーメンしかみんな食べてないもんな・・・。
何しろノーマルなラーメンだと400円という安値。
学生という身分ではやはり質より量・・・と言ってしまうと味がマズい、と思われかねないけど、味はそこそこです。素朴な味噌とんこつ。屋台ラーメン風味。
「へいお待ち!」
マスターが直々にどんぶりを2杯、テーブルに持ってきてくれた。
俺たちが入ってきてテーブルが満席になったので、いいタイミングだったな。
まあ、カウンターも空いてたけど、席が離れてしまうしな。
「あっ蔵田、素ラーメンじゃないの?」
「高橋は無印か?」
「うん。君はもやしラーメンにしたね?プラス60円の」
「悪いか」
「いや。野菜はむしろ摂っておいたほうがいいよ。若いからって肉ばっか食べてると痛風になるかも知れないしね」
「なった奴いるの?」
「知り合いでね。まあ肉が原因か解らないんだけど、とにかく野菜はほとんど食べずに肉三昧だったとか」
「偏食だなー。そりゃ身体おかしくなるわ。親もちゃんとしたもん食べさせろよ」
「だよね」
そんな他愛ないことを喋りつつ口に運ぶ、久しぶりにインスタントではない麺の味。
ラーメンって、たった一杯で幸せになれる気がするよな。
俺がただ単に好きなだけだろうか?
「あー、お客さん、丁度いっぱいでして。カウンターもあと一人だけしか今座れないんで、お待ちいただいてもいいですかねぇ?」
アルバイトらしい男性が入り口付近でお客に話している。
大学生かフリーターくらいか。
いや、そんなことよりも、話してる連中に見覚えがあるような・・・。
「あ、あの席!知り合いだから座ってもいい?」
「え!2名の向かい席ですからちょっと難しいかと・・・」
「ご希望ならお通ししてさしあげなさい」
「あっ、はい!」
そんなやりとりがあって入ってきた連中は、椅子を他所から持ってきて、無理やり割り込んできた。
「蔵田!狭い!もっと詰めて」
「無茶言うな!元々2人席だろーがっ」
篠田め。なんでこいつはいつも俺に容赦がないのか。
「仕方ない、高橋の横に着くわ」
高橋も「あはは」とか言いながら苦笑している。
「男女で分かれて座る?シノちゃん」
清川が、喋りつつ真ん中あたりになんとなく座る。
「どっちみち一緒よ。メンドいからいいわーキヨ」
さいですか。
「よっこいせっと」
「何がよっこいせ、じゃ。年寄りのような。・・・つか部長、なんでここに俺たちがいるの解ったんだ?」
小山は俺に密着してくる。
「うんうん、ほどよい弾力ですなぁ。難を言えばこう、腕の筋肉質のごつごつ感が少し減ってぷるっとしてればなお頭を預けるのに心地よい!」
「何を考えてるんだよ・・・」
「素ラーメン3つおねがいしまーす!・・・帰り際に高橋君とラーメン屋がどうこう言ってたでしょ?キヨちゃんと話したら『たぶんここだよ』ってことになって。後をつけてきたわけですな。シシシ!」
「ラーメン屋、学校の帰り道にいくつかあるけど、安くてよく行きそうなとこといったらココしかない、とあたしも予想してたけどやっぱりだったわねぇ」
「安上がりで済まないな。さぞや篠田お嬢さんはいいものを普段食べてらっしゃると」
「蔵田も卑屈ねぇ。んないいもんなんか食べてないわよ」
「でも結婚したら質素な人のほうが無駄遣いしないからいいんだ、ってうちのお母さん言ってたよ」
「清川さんの家はしっかりしたご両親に育てられてそうだね」
高橋がそう言ったところにラーメンどんぶりが3つ揃ってやってきた。
「いただきまーす!」後から来た三人、合掌。
ズルッ ジュルジュルジュル・・・。
君ら、一応女子だろ・・・がっついてるな・・・。
「いえいえ、そんなことは」と清川。さっきの話の続きか。
「高橋ん家、ちょっと上流だかんな。川の上の方に住んでるって意味じゃないぞ。割と世間ズレする程度には金持ちの部類だってことだ」
「そんなことないでしょう、蔵田」
意外そう顔をするな、高橋。
「そんなことあるって!」
「へぇー、そうなんだ?」
「おっ、篠田の顔色が少し変わったぞ。気をつけたほうがいい、友よ!たかろうとしているやもしれん!」
「何言ってんのよっ!」
げしっ。痛ぇ。
割り箸の裏の角で俺の頭、突くなよ・・・。
「ねえ、キヨちゃん、パンフ掛けてある」
店のカウンターの柱を指差した小山。
清川が、次いで俺たちが皆その方向を見る。
「ほんとだねぇ!なんか嬉しいね!」
「キヨちゃんの絵は結構人気みたいだしね~!色んな人に手にとってほしいよね」
「お!もしかしてこのパンフレットの絵って、お嬢さんが描かれたんですかい?」
カウンター越しに店主が話しかけてきた。
「ええ、そう・・・です」
ややもじもじしながら清川。人見知りが激しいのはやはりどこへ行ってもだな。
「いやぁ、ここで会えるとは思わなかった!・・・あー、実はね、ウチの娘が、ああ、今年小学5年なんだが、そのパンフの絵を気に入ってましてね。家の部屋の学習机の横にいつも置いてあるんだ」
「へえ・・・」
そうなのか。大人気だな。
「丁度なんか、セーラールーンとかプリキュラとか流行ってるでしょ?あれ、娘大好きで。絵柄が似てるんだろうかね、ああいうの描きたいって言ってて、ええと、失礼、どなただっけ」
「清川です」
「ああ、キヨカワさん。あなたの絵みたいにうまくなりたいって、宿題の合間にパンフ見て模写してるんですよ」
「うわぁ」
清川の顔が綻んだ。
「すごいじゃない!」
篠田は自分のことのように嬉しそうだ。
そしてそれは小山も同じであるように思われた。
「あの~、もしよかったら・・・」
体格のいい男性店主は言い淀んだ。
「・・・なんでしょうか」
清川が促す。
「ウチの娘に絵、教えてやっちゃくれませんかね。もしパンフの絵の人だって知ったら、相当喜ぶと思うんで」
「素敵だと思います!」
ガタッ。
なぜか小山が拳を握り締めて立ち上がっている。
「君は一番遅れているから、早くお食べなさいな・・・麺が伸びる前に」
「あっ、うん、りょーかい」
「はい、喜んで」
それから店主と清川は連絡先のやりとりのようなことをしていた。
イラストの家庭教師・・・?
聞いたこと無いからそういうのだったら面白いな。
「あー、才能がある人ってうらやましいわねー」
肩をすくめる篠田。
「まったくだよ」
高橋が同調。
「よし、この素晴らしいパンフをこれから配りに行こう!」
店主との会話ですっかり自信がついたのか、小山の希望で、店を出た後しばらくは商店街のほうまで戻って配り物を散布することになった。
気をよくした店主が取り計らってくれて5人分のラーメンが、無料になった。
たぶん、清川のお陰。ありがたや~。
あ、タダになるんだったらもう少しお値段高めのメニューにすればよかったな・・・とか考えてる自分が浅ましい・・・。




