第14話 沿線のバザーにて
ゴールデンウィーク連休2日目は、宮郷の沿線ではいくつかの駅で市が立つ、とのことだった。
爺ちゃん、婆ちゃんの農作業を手伝っていた俺は、昼過ぎに作業が一段落したので暇をもらってまた列車に乗り込む。
蓮見駅、湯樽駅などで車窓からイベントらしい風景が見えたので、きっと何かバザー的なことをやっているのだろう。
終点・宮川駅のひとつ前、十日市駅ではより大きな市を終日しているらしい。
俺が目指すのはそこである。
昔々、毎月10日に市場が立つ場所と言われていた十日市地区は、今もその名を駅名に残すが、市場自体はなくなっている。
今回、各方面とのタイアップ企画で、駅とその周辺で市が出ることになった。
野菜から古本、中古の家具や衣類まで。
業者から一般人まで様々な人が露天やバザーを構えている。
十日市駅に降り立った俺を迎えたのは、そんな光景だった。
そして、部員達との再会。
「よっ」
「蔵田君、こんにちは」
一番近くに居た清川が柔らかく微笑んだ。
「篠田の姿がないようだ」
「ああ、シノちゃんは急にお父さんが家族で出かけようってことになって。たぶん今日はドライブかな~」
「ふうん。まあ、これが普通だよな。清川は一家で出ないのか?」
「ウチはお父さん仕事だしね。シフト勤務であんまりカレンダー通りにいかないんだぁ」
「そっか」
まあ、土日祝日に休める人ばかりじゃないよな。
工場だとか病院だとか警備の仕事だとかは必ずどっか動いてたりするもんな。まあそれ以外の職業もだけど。
「高橋?あれ?なにやってんの」
駅前広場では隣接する公園の一部まで入り込んでテントがいくつも並び、その中を出入りしてるうちに見知った顔を見つけてしまった。
「はは、いらっしゃいお客さん」
「友達にお客さんはないだろー」
普段着で折りたたみ椅子に腰掛けた高橋の前方には、借り物のテーブルに雑貨のようなものが並べられている。
周囲もよく見れば似たような人ばかりだ。
一般市民がやってるバザーみたいなものかもしれない。
「まさか店番とか?」
「そうだよ。本来は小山さんの場所だけどね。ま、未成年は一応出店できないから名義はご両親のどちらかで出してると思うけど」
「で、その小山はどこに」
「様子を収めるといって、僕のカメラを持って歩いてるはずだよ」
「おお、そうなのか」
ぐるりと見渡す。
割と近い場所でその姿を見つけた。
2,3軒となりの露店で、たこ焼きを買っているではないか。
確かに首から一眼レフを下げてはいるが・・・と思ったらこっちへ戻ってきた。
「おお、蔵田君!」
「よう小山。絶賛買い食い中だなー」
「それは言わない!・・・あ、丁度よかった、たこ焼き8個入りだからさ、1人2個ずついけるよー!ああ、それと高橋君店番サンキュー!」
「ああ、いえいえ。のんびりさせてもらいましたとも」
「何か売れた?」
「マンガ2冊と古着が1着、かな」
テーブルの上には古着、その足元には段ボールに入った本が。
マンガ、小説、辞典のような分厚い本、児童書などなど。
収まりきらないものはレジャーシートの上に乱雑に置かれている。
時々、人が通りかかっては品物を物色しては立ち去っていく。
「がらくた処分にいいなこれ。このバザー」
「まあ、売れてくれればだけどねー」
俺の独り言に小山が付き合う。
雨天だとテントの中に完全に売り物を押し込めないといけないので、今日のような好天はバザー日和といえる。
「キヨちゃんも本、持ってくればよかったのに?」
小山が、戻ってきた清川に話しかける。
「え」
清川は他所で中古の漫画本や絵本を買っていたようだ。
肩から布製のバッグをかけていたが、本自体はまだ両手の中にある。
「売りたい本とかは特にないよ~」
「同人誌とかあるんじゃ?」
小山の意見に清川は目を見開いて首をぶんぶんと大きく横に振った。
やや赤面しているようにも見える。
「同人誌って何だよ」
「漫画とか小説なんかを執筆してるアマチュアの活動家が出す本のことさ」
代わりに答える高橋。君は何でも知ってるな・・・。
「つまり、清川は漫画描いて、それ本にしてるってことか?」
「うん、まあ・・・」
「すごいな・・・でも見せたくないということはなんだ、つまり・・・」
「甘々な恋愛モノとか、結構抵抗あるよね、興味ない人とか見せたらバカにするもんねえ」
小山の意見に「うん」と小さく頷く清川。
へぇ。そういうことか。
「俺はぜんぜん大丈夫だけどな」
一応、フォロー気味にそう返しておいた。
夕方が近づくと、出店していた人々はそれぞれのスペースで撤収作業に入り始めた。
売れ残った品を段ボールに詰めたり、自家用車に運びに行ったり。
テントも片付けが進行中だ。
俺たち・・・といっても小山が借りていた場所もあらかた綺麗に元通りになった。
問題は、残った品をどうやって小山家まで持って帰るか。
・・・などと思っていたらこちらに近づいてくる足音。
「あ、お母さん!」
小山が叫ぶ。
品の良い感じの婦人は、娘に挨拶すると、次いで付近に居た俺たち3人に一人づつ会釈した。
「いつも菜波がお世話になっています」
小山の家の人は印象が柔らかいな。
「ああ、いえ、我々は何も」
高橋の言うとおりだ。
「はい、むしろこちらがお世話になっているくらいで」
とりあえずそういっておく。まあ、お世話したりされたりの間柄だ。
「清川さんも、いつもありがとうね」
「ああ、いえそんな」
清川とは前から交流があるのだろう。
高橋は小山のお母さんとは初対面だ。
俺とは・・・たぶん前に会ったことはあるはずだが、なにぶん大昔のことだ。お母さんとは小学生の頃に数回会ってるような気がするが、もう忘れてしまっている・・・。
「いつも家に帰るとね、娘が今日はああだった、こうだった、面白かったって自慢するんですよ。勿論皆さんのことなんですけどね」
そう言って母君は微笑んだ。
「部活が始まってから結構毎日あちこちに出かけるようになったんですけど、楽しいらしくて。お父さんが亡くなってから最近までは、家でもあまり笑ったりしなかったんですけど」
え・・・。
小山が、あまり笑わない・・・!?
学校ではいつも笑ってるような彼女が、部でもオフでも会ったときは常に病的なまでにアクティブな印象しかない、小山が、家では違うのか・・・?
お父さんが亡くなっているというのも今初めて聞いたぞ・・・。
「はい、車に積めたよ。お迎えありがとう」
小山が戻ってきた。
今の話を訊き返すことはしかしためらわれた。
また、何かの機会に話すこともあるだろう・・・。
「ここで解散になるかな」
「うん。高橋君ありがとう。キヨちゃんも」
小山が笑顔を振りまいていた。
お母さんの話はまだどうもしっくり来ないが、おそらく嘘をついているようには感じられない。俺の心には、なぜかもやもやしたモノが残った。
「蔵田君も。忙しいのに来てもらってごめんね」
なんで俺だけごめんねなんだよ。ありがとうでいいじゃないか。
「いや、わざと予定を空けたとかじゃなくって、昼から暇になったから覗きにきただけだから。気にするな」
小山が助手席に乗り込む。
「あ、あなたが小学校の頃来てた蔵田君?」
「はい、そうです。お久しぶりです」
母君は憶えておられたか。
「大きくなられましたね。少し昔の面影が」
そうなのか。
「また、ウチにも来てくださいね!菜波も喜びます」
「あ、はい!」
俺は笑って会釈した。
「じゃあまた!ばいばい!」
小山が開いた窓から手を振る。
ハンドルを握る母親もこちらに向かって軽く首を上下させた。
「菜波のこと、よろしくお願いしますね・・・ああ見えて結構寂しがりやなもので」
帰り際に小山のお母さんに言われた言葉を反芻する。
大丈夫か?小山。無理しないでくれよ。
俺たちは仲間じゃないか。




