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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
12/64

第10話 車内でお話し(2)

挿絵(By みてみん)


 泉田(いずみだ)駅に着く頃だが、まだ尾早稲駅周辺の話は続いている。


尾早稲(おわせ)駅でね、去年から『土偶饅頭』って売られてるんだけど、知ってた?」


「いや、知らんね」


「あまり去年のこととか知らないの?」


「だなあ。俺はずっと他の町で暮らしてきたし、去年といえば丁度こっちに越してきた頃だ・・・あまり周囲の様子に、特に沿線のこととかは見てなかったような」


「まあ、一生懸命活動してきたけど、あまり周囲に響いてないかもってのが今の発言でよくわかったよ・・・」

 

 小山はややげんなりしたような表情を見せたが、それは一瞬のことで、気付いたときには普段どおりの明るい顔に戻っていた。


「・・・と。ちょっと待て。うっかりスルーするとこだったが、土偶饅頭って何だ!?その怪しいネーミングの菓子は!?」


「尾早稲の古墳群の知名度を上げよう、観光客を呼ぼう、宮郷線で来てもらおう、をテーマに新しく作られたお菓子なんだよ」


「その菓子も知らんが、古墳群の知名度って上がったのか?」


「意外と。ただ、お菓子があまり売れてないんだよね・・・」

 

 小山はカバンをごそごそし始め、一冊のフォトブックのようなものを取り出した。

 ようなもの、というかまさにそれだった。

 彼女は座席の上でぱらぱらとページを繰りながら、探しているページを見つけ出す。


「あ、これこれ。これが、土偶饅頭」

 

 小山が俺に見せてくれた写真は、恐ろしげなフォントで「土・偶・饅・頭」と書かれた外装と、開封後の、人の形を模したいびつな饅頭の姿だった。


「こりゃないわ・・・」

 

 俺は思わず噴き出してしまった。

 

「いやいや、これ、不気味すぎっしょ!」

 

 箱を空けたらでかい頭と短い手足とふくれた腹を持つ謎の生命体がこちらを向いている。

 その両眼は閉じられていたが、その表情は何を思っているのかわからない。

 わからないだけに感じられる、得体の知れない恐ろしさ。


「一部の買った人は・・・すごい顔がこわいって。宇宙人みたいって」


「ほんとにこりゃバケモンだな・・・夢に出そうだぜ」

 

 自分で言っててなんかお菓子が哀れに思えてきた。


「なんかな・・・可愛さ?美しさ?そういうのがお菓子には必要だよな?」


「た・・・たぶん・・・」


「・・・でもこれはこれで、ネタ的には面白いかもしれん・・・『日本一不気味なお菓子あります』とか告知したりして・・・」


「それいいね!なんでそういうのに気付かなかったんだろう。今度お店の人に言ってみよう」

 

 言っちゃうのか?


「まだ人形焼みたいにふっくらした感じなら救われた気もするが・・・」


「企画の段階だとかなりイケてる感じだったんだけどね、いざ出来上がったら怖い商品だったよねー」


「あと、地元にこだわるあまりに地元のみで売ってるとかじゃないか?」


「そうだね、たぶんそう」


「宮川市内とかでも売ればいいのにな。こっちより人口多いんだしさ」


「だよねぇ。今度提案してみるよ。メモメモ」

 

 企画はともかく、なんか初歩的なとこでつまずいてる気がしなくもないなあ。

 どうかなぁ、どのみち売れないか?それとも、「ここ、尾早稲でしか買えません!」ってほうがいいんだろうか。ううむ・・・。


「はすみ~。はすみに到着です」

 

 列車は蓮見駅に到着した。

 この駅周辺は蓮が群生する大きな池がある。読んで字の如し。

 この近辺も、季節によっては見ごろだったりするのだろう。

 

「土偶って、尾早稲の古墳で見つかったのか?」


「いや、見つかってないみたいだよ」


「え・・・」

 

 思わず絶句。


「じゃあ何が見つかったんだよ」


「古墳では銅鏡とか勾玉みたいなのが出土したらしいから、古代の貴人の墓じゃないかって専門家の人が言ってるみたい」


「土偶にこだわったのはなぜ?」


「んとね、確か遺跡をテーマにお菓子でも作りませんか、って案が出たときに『古代の遺跡といえば土偶だろ!』っていうのが源田町の役員さんから出たとかで・・・それが通っちゃったみたい」


「通っちゃったのか・・・まだ埴輪とかにしとけば可愛げがあったのにな・・・こんな黒光りのする呪いの人形みたいなんが複数体入っててもおいしくないよな・・・きっと」


「だねえ・・・」


「まだその、出土した銅鏡をモチーフにした円盤型のワッフルみたいなんでも作ればよかったんじゃないか?」


「おお!それだよ!そういうのすればよかったよね!蔵田君すごい!企画スタッフに蔵田君みたいな人がいればよかったよねぇ・・・」

 

 なんだかなぁ・・・。


「この土偶だと、かざせば別の円盤を呼んじゃいそうだよね!ベントラー!ベントラー!」


「実はお菓子じゃなくて宇宙人と交信するアイテムだったというオチか」

 

 思わず笑ってしまった。

 つられて小山も笑う。

 

 いやあ、色々面白そうなことやってるのになあ。

 なにか今一歩で、惜しいよなあ。

 不気味さを前面に押し出すとか、もっとアピール方法変えればどうにかなるかもしれないけど。


 

 そうこうするうち、列車は高地まで進んできている。

 蓮見までは割と低地だったようだが、もうかなり標高が高い。

 標高800メートル以上あるだろうか、寿法山(じゅほうざん)という山の名と同じ名前を持つ駅は、マニアの間では秘境駅として知られているらしい。

 

 かつてはこの寿法山の中腹、駅がある周辺には農業や林業を営む人たちで築かれた集落があったそうだ。

 が、今では住む者もあまりなく、駅を利用する者も平日では1日に1人居るかどうかだという。

 秘境や高地の駅を探してまわるマニアが来るのはだいたい休日だが、それでも1日の利用者が5人を越えることはめずらしいらしい。

 そう聞くと、1回は降りてみたい気がするかな・・・。


「『玉池・寿法メイプルロード』か・・・」


「粋な名前でしょ」


「うん、そうだな」

 

 名前の由来は、次の駅である玉池と寿法山を結ぶ区間が、紅葉の見ごろの時期には燃えるような一面の赤に覆われるからだという。

 ただ塗りつぶしただけのような赤や朱ではなく、オレンジや黄色や、緑が交じり合ってなんともいえぬ色彩の妙を奏でるのだという。・・・以上、パンフから抜粋。


 新緑に混じって今は遅咲きの八重桜だろうか、淡いピンクがところどころに見える。

 山と、はるか真下を流れる柳瀬川がつくる渓谷も素晴らしい景観だ。

 常時風光明媚な場所に憧れる旅の人なら、来て損はないはずだ。


 山を貫く長いトンネルを抜けると、玉池(たまいけ)の駅が見えてきた。



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