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辺境高校生  作者: にしむらぱすた
【本編】
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第8話 週末、一人の朝

 宮川駅駅舎に隣接する観光案内所では、清川が挿絵を描き、企画の一部に小山が参加したという新しいパンフレットが好評だそうで、設置して数日で無くなったことから別途、用意されることとなった。

 こんなに反応がいいなら、もっと早くに出来ていれば、と思う。

 そして、これを手にして沿線を列車に乗って散策する人が沢山出てくれれば。


 宮郷線は全長およそ・・・ええと、何キロだ・・・?

 よくわからんが、宮川駅のある宮川市から古岩町(ふるいわちょう)源田町(げんだちょう)を経て須ノ郷村(すのごうむら)の終点・桜淵(さくらぶち)までを結ぶ19駅の路線だ。

 路線の北に行くほど人の乗り降りは加速度的に減少する。

 確かに赤字で潰されそうにもなるわな。

 駅の数は割と多いが、昔はそれなりに需要があったということなのか。


 古岩町も源田町も、人口減少に伴って高校が廃校になったりと学習環境はすこぶる悪い。

 宮川まで出れば、ということでそこの学校に通っているわけだが、はっきり言ってJRもバスも、須ノ郷から通うには遠すぎる。

 

 とはいえ、諸般の都合で宮川市内まで出て下宿するとか寮に入るのはためらわれた。

 理由はいろいろあるが、外部にはあまり言いたくはない・・・じいちゃんばあちゃんの田畑の耕作手伝いがあるせいなどで動けないのだ・・・田植えとか稲刈りとか。

 あとは、まあ、田舎が単に好きだから、ということもあるかな。


 小山は何で宮川で生活しないんだろうな・・・って、やはり女子を一人、身内以外のとこにはなかなか出せないよなぁ・・・親の観点からすれば。

 うーん、しかしもういい年齢の女子が一人で遠方から通学するのもなんだか。

 田舎の人はそういう危機感があまりないのか。

 都会だとかなり危険。

 変なヤツうろうろしてるからなあ。

 気をつけるよう言うだけではアレなので何かサポートできればよいが。


 そういえばそろそろ村じゃ田植えの時期か・・・。

 田畑によっては耕運機の音がし始めているような気がする。

 

挿絵(By みてみん)


 週末の休日。


「出てくるけんね」

 

 そういい残して婆ちゃんは家を出た。

 何をしに行ったのかはわからないが背負(しょ)うタイプの円筒形の(かご)と鎌を持ってたような感じだったので、草刈りか何かだろう。


 爺ちゃんの姿はもうとっくになかった。

 婆ちゃんとどっかで野良作業をしているのかもしれない。

 

 もう高齢だが、年金生活者となっても「先祖から受け継いだ土地は守らんといけん」ということで、残された田畑で稲や野菜を育てている姿には感心させられる。

 居候なので手伝わないと、と思い声かけもするが、大抵決まって「学生は勉強しとりゃええ。いつもはいいけん」と言われて引き下がる。

 

 ただ、田植えと稲刈りは出てくれると助かる、ということなので参加している。

 とはいえ進学で去年こっちに来たばかりなので、2回くらいしか手伝いできていないのだが。


 

 カチコチと壁の振り子時計が音を背後で立てている間に、朝食を摂る。

 そのうちパンの最後のひとかけらをほおばる頃には「ボーン、ボーン」と時報が9度部屋に鳴り響いた。


 3人が住むには広すぎる家だ。

 親父や親戚が帰ってくる盆、正月は割と身内で賑わうだろうが、普段は使われることのない空き部屋たちが暇をもてあましている。


 庭に出て、伸びをする。


 今週もいろいろあったなぁ・・・。

 起きた事を思い出しながら周囲を見渡してると、郵便受けから新聞の一片が覗いている。


 「まだ取ってなかったんだ」

 

 抜き取って縁側まで歩いていき、腰掛ける。

 なんとなく浅く記事を読みながら、時折上に目を向ければ、晴れやかな空が広がっている。



「静かだ・・・」

 

 小鳥のさえずる音と近くを流れる川のせせらぎくらいしか耳に入ってこない。

 大都会の喧騒とは対極にある、穏やかな場所だ。

 まぁ、もっとも大都会、特に東京などの通勤ラッシュ時の混雑など大変だろう。


 都会暮らしが長く、社会人な従兄(いとこ)の一人などは「ありゃ”通勤”じゃない、”痛勤”だ」とか言っていたな・・・。

 朝も夕方も移動も出来ないような電車の車内ってどんなんだろうな。

 次々と列車が来るのにどれもこれも大量の人で溢れかえってるなんて。


 宮郷線は、あまりに乗り手がなく、1日の運行本数も極限まで減らされ現在5本程度。

 一応俺が厄介になってるこの家も、一柳(いちやなぎ)という駅が割と近くにある。

 沿線住民だ。

 

 地域文化部の部長であり、存続活動に以前から加担している我等が小山女史はそのすぐ次の駅、七ヶ瀬(なながせ)駅の近くに家があり、そこから毎日宮川駅までを往復しているようだ。

 

 俺はといえば、沿線住民ではあるものの、最近運行し始めた宮川市~須ノ郷村シャトルバスを利用している。

 だが部に入り、小山の話を聞くうちに、だんだんとバス通学をしているのが申し訳なく思ってきた。


 しかし、山あいや谷や、盆地をうねるように蛇行しながら伸びる線路を走る宮郷の列車では、自宅からだと通学に1時間半はかかってしまう。

 過疎化が進み、運行本数も相当減らされてしまった今の宮郷線はお世辞にも使い勝手がいいとはいえない。

 鉄道会社上部からの肩たたきにあっているのだから当然といえば当然だ。

 

 村でも農業人口の減少や政府の昔の減反政策のあおりを受けて田畑を手放した人が多く、後継者もなかなか居ないことから宮川の工業地帯などに”出稼ぎ”のような形で通勤する人が多くなったそうだ。

 宮川市内に住めばいいが、持ち家を空けたり手放したりするのはためらわれる、いくらか残って耕作してる畑が気になる、といった人を対象に市営のバス路線が新設された。


 大きくうねりながら進む宮川~須ノ郷間を結ぶ国道3XX号に、新たに直線の長いバイパス無料区間が開通した。新道バイパスを車で走れば交差点や渋滞もほぼなく、早い。そこを走るシャトルバスの運行開始は、多くの村民と、一部通過し中継点となってる源田町の住民に喜ばれた。


 しかし、シャトルバスの運行は、これから宮郷線を復興に向けて頑張っていこう、とする人々にとっては逆に足枷(あしかせ)となった。

 走行距離の短さも、走行時間も、バスのほうが勝っていた。運賃は同じようなものだ。

 通勤、通学に宮郷線を使っていた人、また昨年まで宮郷線の存続を、と声を挙げていた人のいくらかがバス利用、バス支援の側に回ったのだ。

 ただ、シャトルバスが入ってこないエリアの住民はこれまでどおり存続支援を訴えた。

 

 宮郷線は、これによりさらに寿命が縮んだのでは、と一部の人々は思った。

 そして、存続運動を盛り上げていたリーダーは、持病を押して運動に力を入れすぎたのか、無念の病死。


 あらゆる施策を投入しての復興活動が行われた昨年。

 鉄道会社上部組織が提示した存続要件は「輸送密度800人の達成」。


 つまり、小山に聞くには、「年間平均に換算して鉄道利用者が1日あたり800人以上であること」らしい。

 どこでカウントしてるのか知らないが、どっかで人数を把握してるんだろう。


 赤字路線は確実に運行会社の経営を圧迫し続けているから、改善の余地無くば切り捨てざるを得ない、というところだろうか。

 

 

 平日に乗る人員が少なければ休日、連休にイベントを興しこれで人数を稼げ!


 このスローガンのもと大々的な施策が投じられ、地元出身の歌手による駅前広場コンサート、お座敷列車、花見列車、紅葉列車、道の駅と連動した地元野菜の駅での即売会、グッズ販売・・・色々あったらしい。

 

 日によって人数にものすごい隔たりはあるものの、満身創痍の宮郷線は昨年、かろうじて目標値をクリア。事なきを得た。

 

 が。

 鉄道会社が提示する条件は、毎年適用される。

 つまり、今年も。

 今年達成できなければ、路線は廃止される。

 

 かつての辣腕(らつわん)リーダー亡き今、強力な指導者不足。バイパス開通による鉄道からバス利用者への大規模な鞍替え。

 

 今年はもう、瀕死だ。

 そして・・・この後どうなるのだろう。


 このままいくと確実にこの路線は死ぬ。

 今俺たちがやろうとしていることは、もう既に亡くなると決まっているものに、延命措置を無理に施そうとしているのかもしれない。


 地域住民が鉄道を利用しないなら、それはもう、役目を終えたということじゃないのか・・・。


 鉄道の廃止に反対の姿勢を示しながら実際はバスを利用し、無くなったほうがもしかしたらいいのかもしれない、などと不埒なことを考えてしまう自分に嫌気が差してしまう。


 だが皆、なんとなくそういう思いがあるのではないか。

 だから小山は、部活の一部を通じてでも、鉄道のよさをアピールしたいのかもしれない。



 新しく出来たパンフも人気だそうだし、春に行われたお花見列車も結構な人が来て賑わったらしいから、まだ希望はある。


 とりあえず、列車通学になってみようか。

 沿線の魅力がある程度わからないと、活動も空疎(くうそ)なものになってしまう。


 そんなことを思いながら、付近を散策した。






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