6.学校
翌朝、いつも通りの時間に目を覚ました俺は、朝の日課である勉強を行った。
一時間くらい勉強をした後、リビングへ行き、母の作ってくれた朝食を頂いた後、俺は家を出た。
道中、歩きスマホをしながらまた勉強をして、気付いた時には駅に到着していた。
電車が来るまでの間、スマホをボーっと見ている時のことだった。
「あっくん。あっくん」
背後から聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「……あ、奏」
「おはよっ」
振り返った先にいたのは、奏だった。
「おはよう。奇遇だね」
待ち合わせもしていないのに、まさか同じ時間の電車を待っていただなんて。
「本当だね。すっごい偶然。なんだか運命を感じちゃうね」
「……いや、何もそこまでは」
「運命、感じちゃうね!」
「……うん」
昨日、奏と再会を果たしてから少しだけ思っていたことだが、なんだか奏の奴、小さい頃に比べて全体的に圧が増した気がする。
まあ、ごり押しがすごい性格をしていた部分もあるから、割と肯定的に受け止めているのだが……なんだろう。時々、少しだけ怖い時があるんだよな。
「……あっくん。どうかした?」
「え? ……ああいや、なんでもない」
「そう? 顔色優れないよ? 休憩する?」
「大丈夫大丈夫」
「そう? 無理しちゃ駄目だよ?」
……まさか、奏に体調の心配をされるとはな。
「さ、電車が来たし行こうか」
「うん」
俺達はやってきた電車に乗り込んだ。
「あっくん」
しばらくの間、俺達の間に会話はなかったが、奏が口を開いた。
「学校、楽しい?」
あまりに唐突な質問だった。
「楽しいも何もないよ。学校って、勉学に励む場所でしょ?」
そして、勉学は楽しいものではない。
「……ふうん」
「……」
「あっくん。もしかしてクラスメイトに虐められたりしてる?」
「え?」
あまりに飛躍した質問だ。
俺は思わず、目を丸くしていた。
「……そんなことないけど?」
「そう? でも、昨日再会したばかりだけど、なんだかあっくん、昔に比べてあんまり楽しそうじゃないよね」
……誰のせいだと思っているだろう。
「だからさ、心配になっちゃったんだよね」
「……大丈夫。いじめられてなんかないから」
「そう? 無理しちゃ駄目だよ」
「無理なんて……」
「何かあったら相談してよ」
「相談したら、何かしてくれるの?」
「勿論」
奏はニッコリと微笑んだ。
「他でもないあっくんのためなら、あたしなんでも出来るよ?」
そっか。
であれば、絶対に相談は出来ないな。
「……奏こそ、昨日の放課後は空気を読まない行動に出て、大丈夫なの?」
車窓から外の景色を見ながら、ふと昨日の放課後の出来事を思い出した。
昨日の奏は、俺以外のクラスメイトの多数に遊びに誘われたが、結局それらを全て無下にして、俺の家に寄った。
恐らく、あのクラス内でも特別カーストが低い俺との時間を、他クラスメイトとの時間よりも優先したのだ。
「……図に乗っていると思われちゃうかも」
「図に乗っていると思われたら、どうなっちゃうのかな?」
「……君こそ、いじめられるかも」
「あはは。そっかそっか」
奏は笑った。
「一度死にかけたあたしからしたら、たかだか高校生にいじめられるくらい、なんでもないよ」
……なんだろう。
今の奏からは、戦場で生き延びて母国に帰国した軍人並みの風格を感じる。
「……駄目だよ。いじめられるだなんて」
「ん?」
「……折角、病気を治してもう一度学校生活を楽しめることになったんだから。たった一度の学校生活、楽しまないと」
俺の言い分に、奏は目を丸くしていた。
「あっくんが言う?」
そして、奏は正論を吐いてきた。
確かに俺はさっき、学校は勉学に励む場所で、楽しむ場所ではないと言っていた。そんな俺が、奏に対しては楽しめ、と言うのは……矛盾も良いところだ。
「……じゃあ、あっくんも学校生活を楽しんでくれるのなら、あたしも学校生活を楽しむよ」
「……そうですか」
「うん」
奏は力強く頷いた。
「あたし達、運命共同体だもんね」
なるほど。初耳の設定が沸いて出てきたな。
まもなく電車は学校最寄り駅に到着した。
「あ」
改札を出たタイミングで、俺は思い出した。
「そういえば奏、昨日、俺の部屋に忘れ物しなかった?」
鞄を漁りながら、俺は尋ねた。
「……」
「……奏?」
「あー。……うん。充電器、忘れたかも」
「そうだよね。はい」
俺が鞄から取り出したACアダプタを差し出すも、奏はそれを中々受け取ろうとしなかった。
「別に、ACアダプタくらい、あっくんが使ってくれても良かったんだよ? 消耗品だし」
「駄目だよ。こういうことは、キッチリしないと」
「……」
「他でもない君とだから……キッチリとしたいんだ」
「それなら仕方がないねっ!」
さっきまでの渋り具合から一転、奏は満面の笑みで、俺の手からACアダプタをひったくった。
「あっくん! 何ボーっとしているの! ほらほらっ、早く学校に行こうっ!?」
「……急にめっちゃ元気じゃん」
再会を果たして一日と少し。
俺はまだ生還した奏のテンションに追いつき切れていないようだ。




