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余命宣告を乗り越えた幼馴染の愛が重い  作者: ミソネタ・ドザえもん
第七章

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33/84

33.勝負

「ふう、なんだか体、火照っちゃったな」


 ひと悶着を産んだマッサージからしばらくの時間が経過した。

 俺達は寝るための準備を進めており、テーブルを端に寄せて布団を敷いたりしていたのだが、一足先にベッドに寝転がっていた奏が、唐突にそんなことを言い出した。


 布団を敷いた後、奏の発言の真意を確かめるべく、俺は彼女を見た。


 奏の額には薄っすらと汗。

 頬も紅潮しており……確かに少しだけ暑そうだ。


「エアコンの温度下げる?」


 手を団扇代わりにして風を煽ぐ奏に尋ねた。

 返事はない。

 代わりに、奏はTシャツの首元を引っ張って、上半身にも風を送り始めた。


 ……俺は奏から目を逸らした。


 奏がTシャツの首元を自ら引っ張ったおかげで、そこから彼女の肌が微かに見えたのだ。

 男子高校生には、少しだけ刺激が強い光景である。


 とりあえず、問答無用でエアコンの設定温度を一度下げた。

 

「むぅ……」


 これで彼女の体の火照りも解消できると思ったのだが、奏はどこか不服そうだった。


「……奏、寝ようか」

「ねえ、あっくん」

「何?」

「どうせだから、ベッドで一緒に寝ない?」

「駄目だよ」

「……どうして?」


 奏の声のトーンが低くなった。


「だって君、火照って熱いんでしょ? シングルベッドで二人で寝たら窮屈で、余計熱いよ?」

「……確かに」


 奏は納得したようだ。


「じゃあ、電気消すよ」

「うん」


 部屋の電気を消した後、真っ暗になった室内で、俺は布団まで向かい、ゆっくりと寝ころんだ。


「……ふぅ」


 やっと今日一日が終わる。

 ……今日も、勉強に学校に、何かとハードな一日だった。


 ハードな一日を乗り越えた自らに、敬意を表したい気分だ。


 俺は目を閉じた。

 明日はいつも通りの時間に目を覚まして、いつも通り……勉強に明け暮れよう。そう思っていた。


「あっくん」


 しかし、今日だけはこの室内の同居人である女の子に呼びかけられた。


「……あっくん?」


 実を言うと、目を閉じる前から少しだけ眠気に襲われ始めていた。

 目を閉じた瞬間、その眠気はピークに達して……奏への返事も億劫に感じ始めていた。


「あっくーん」


 だから……これはもう寝落ち寸前なだけであって、決して奏を無視しているとか、そういうわけじゃない。

 ……俺は寝息を立てながら、深い眠りに落ちた。


「えいっ」

「ぎゃっ」


 ……深い眠りに落ちたかった。

 ベッドが軋む音が聞こえた数秒後、布団の中に気配を感じた。

 そして、気配を感じた瞬間、耳元から奏の声が聞こえてきた。


「もう。無視しないで」


 どうやら奏は、ベッドから降りて、俺の布団に入ってきたらしい。


「……無視していたわけじゃないよ」

「無視しないで」

「無視してない」

「無視しないで」

「……ごめん」

「うん」


 奏の声は満足そうだった。


「……それでどうしたの?」

「え? ……あはは。なんだか体が火照ってね。眠くないの」

「そうなんだ……」

「うん。もう少しお話しない?」

「……俺は眠いんだけど」

「……へぇ」


 奏の声のトーンがまた下がった。


「あっくんはあたしのことが大切じゃないんだ」

「はは」

「何がおかしいの?」


 奏の声のトーンが……もっと下がった。



「大切じゃないわけないだろう」



 なんで声のトーンが下がったのかよくわからないが、俺は本心を語った。


「……俺の原動力はいつだって奏だった」

「……」

「勉強を頑張ろうとしたことだって。フランス留学のことだって。全部……君絡みで生まれた行動だった」

「…………」

「君が大切だからこそ、俺は自分でどうしたいかをキチンと考えて、最善で最良の結果を求めるようになったんだ」

「……………」

「ま。まだ何も結果は残せていないけどね」


 それが少しだけ歯がゆいところでもある。


「……あっくん。やっぱり目標下げる気はないの?」


 耳元から聞こえる奏の声と吐息が、少しだけこそばゆかった。


「ないよ」

「あなたの原動力だったあたしは、今、あなたの隣にいるのに?」

「うん。それでもない」

「……そっか」


 奏が俺のフランス留学。ひいてはその先の目標に対して、下方修正を要求してくるのは、再会して目標を語ったあの時からずっとそうだった。

 しかし……本音を言えば、まだ諦めていなかったのか、と感じてしまう。


 奏に何を言われようと……無力だったあの時と同じ轍を踏まないため、俺は一度曲げた決意を変える気は更々ない。


「あっくん」


 ……その目標達成のために、さっさと眠って翌日に備えたいのだが、奏はどうやらまだ寝かせてくれる気はないらしい。


「……あたしと勝負しない?」


 突然の提案だった。


「勝負?」

「うん。次のテスト、どっちの方が高い点数を取れるか、勝負しない?」

「どうしてまた……」

「あたしなりに考えた結果だよ」

「何を?」

「どうすれば、あっくんのフランス留学を阻止出来るか」


 ……それが一体全体、どうしてテスト勝負に繋がるのか?


「だって……あっくんの性格なら、テストで一位も取れないような奴が、大層な目標を持つべきではないとか考えるはずでしょう?」


 ……なるほど。

 まあ確かに……追い込まれたら最終的には、そう思うかもしれない。


「だから、高校卒業後のフランス留学をかけて、あたしとテスト勝負しよう?」

「……わかった」


 断る理由は特になかった。

 だって、宣戦布告なんてされずとも……テストというものは、学生間の学力勝負なのだから。


 そもそも同じ土俵でテストをする以上、テスト期間に限って、俺達は敵同士なのだ。


「……あたし、頑張るから」

「俺も頑張るよ」

「絶対、あっくんとの大学キャンパスライフを楽しむから」


 少しだけテストのモチベーションを高めながら、俺はふと思った。

 ……奏はどうしてそこまで、俺との大学キャンパスライフを熱望するのだろう?

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― 新着の感想 ―
勝ちヒロインがヤンデレになるとどうなるのか、の良いサンプルですね…ヤンデレの意味があるのか、ヤンデレとは何かを考えさせられる。ヤンデレ最高!!
あっくんはフランスに留学したい。原動力となったのは幼少時の奏の病気と無力だった自分への怒りと悔恨。 奏はあっくんと日本で過ごしたい。原動力となったのは闘病時に思い描いたであろうあっくんとの日常。 手に…
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