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余命宣告を乗り越えた幼馴染の愛が重い  作者: ミソネタ・ドザえもん
第五章

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15.ストイックな人

 しばらくの間、俺達は出国ゲートの前で抱き合っていた。

 五分を過ぎた頃から、外国人含む出国者が、俺達に向けて好奇の眼差しを向け始めた。


「奏、そろそろ帰ろう」


 相変わらず俺の胸に顔を埋める奏に向けて言った。


「あっくん……。あっくん……」


 しかし奏は、俺の胸の中で顔をグリグリと動かすばかりで、ちっとも俺の話を聞いていない。


「奏、帰るよ」

「ひぃぅ……っ」


 俺の胸から無理やり奏を離すと、奏は驚いたように体をびくっと揺すった。

 なんだか変な雰囲気が周囲に漂った。


「……か、帰ろう」

「あ、うん」


 ようやく奏の同意を得られて、俺達は帰路に着いた。

 空港を出て、地下鉄のホームで電車をしばらく待って、やってきた電車に乗り込んだ。


「……空いてるね」

「空港発の電車が混む時間は、結構、時間帯によるんだよね」


 空いている座席に座りながら、俺は言った。


「あっくん、本当に空港に通い詰めてたんだね」


 俺の隣に奏が腰を下ろした。


「まあね」

「そんなにあたしとの再会が待ち遠しかったんだ」

「……まあね」


 ……まあ、再会だけで、ずっとあそこに行っていたわけでもない気がする。

 あそこへ行っていたのは、無力だった自分を戒める意味もあった。


「あっくん。あっくん」

「……何?」

「手、繋いでいい?」

「え?」

「えいっ」


 こちらの返事を聞くまでもなく、奏は無理やり俺の手を奪った。


「えへへ。あったかい」


 ……再会を果たしてから、ここまでわかりやすく浮かれている奏は初めて見たかもしれない。

 空港での胸中の吐露の前までの奏は、微笑んではいたが……得も言われぬ圧が少しあった。


「あっくん。肩に頭、乗せてもいい?」

「え?」

「えいっ」


 右肩にジンワリと奏の頭の温もりが伝ってきた。

 ……ただ彼女の髪が俺の顔にかかり、鼻をくすぐってきて少しだけかゆくもあった。


「……幸せ」


 ……奏の恍惚とした声が聞こえてきた。

 

 幸せ、か。


 ……俺も幸せだ。

 二度と再会を出来ないと思った幼馴染と再会を果たせて、かつての贖罪を少しだけすることが出来たのだから、幸せ以外の感情は浮かんでこない。


 ……でも、俺は本当に素直にこの幸せを享受してもいいんだろうか?


「……あっくん?」

「え?」

「難しい顔をしているね」


 ……いつの間にか俺の肩から離れていた奏に言われた。


「……もしかして」


 奏の瞳から、光が消えていく……。



「あたしに、ベタベタされるの、嫌だった?」



 ……俺は俯いた。


「そんなわけない」


 俺は奏をチラッと見た。


「えへへぇ……」


 奏の顔は、今までで一番だらしなかった。


「……ただ、さ」

「ただ?」

「ただ……かつて君と別れた場所で、一つの因縁との清算をすることが出来たわけだけどさ」


 ……俺は続けた。


「俺は結局、本質的には何も変わっていないんだよね」


 あの日、無力だった自分を呪い、戒めとして何かを成せるようになろうと誓った。

 今日まで、一日足りとて努力を怠った日はなかった。


 例え、熱が出た日でも。お腹をくだしていた時でも。どんな時だって自分を追い込んで生きてきた。


「だって俺は、まだ何も成していない」


 これまで自己研鑽に明け暮れたのに、目に見える成果はない。


「今のままこの幸せを享受したら……俺はまた、結果的に君を苦しめてしまうのではないだろうか?」


 そんな疑念……いや、恐怖心に、俺は囚われていた。


「……あっくん」


 奏は同情的な瞳で俺を見ていた。


「あっくんはさ、目標が高すぎるだけじゃない?」

「え?」

「実際、君がこれまでに何も成し遂げていなかったかと言えば、そんなことは決してないと思うんだよね」


 にわかには信じがたい話だった。


「だってあっくん。学力テストでは学年一位なんでしょ? 普通の人ならそれだけで、自分はなんて凄いんだって思いあがるところだよ?」


 ……転校してきたばかりの奏が、どうして俺が学力テストで学年一位であることを知っているんだろう?


「要はさ、あっくん。あっくんがずっと苦しそうなのって……目標設定が高すぎるあまり、達成感を得られていないからなんじゃないのかな?」

「……達成感を?」

「そう。達成感を得られていないから、あっくんはずっと苦しそうで、自己評価が低めで、周囲からも軽んじられているんじゃないかな?」


 ……俺は黙った。


「うふふ。まあ、あたしはあっくんの良いところ、ぜーんぶわかっているけどね?」


 奏は嬉しそうに、また俺の肩に頭を乗せてきた。

 奏の言葉を、俺は脳内でゆっくりと咀嚼した。


 彼女の言い分は……正直、一理あると思った。

 今日まで俺は、自分の成果に納得していない。だから、自分が出した成果はない。

 ……自分がこれまでに成したことは何もない、と、そう誤解をしてしまっているのではないだろうか。


 目標が高すぎる。

 確かに、少し目標を下げれば……俺がこれまでに成したことは、少しくらいはあるのかもしれない。


 ……でも、ここで目標を下げた結果、俺は慢心したりしないだろうか?

 達成感を得られて、この苦しみから解放されて……その結果、後々の大いなる失態を招く結果にならないだろうか?


 本音を言えば、この苦しみからさっさと解放されたい。

 苦しみをずっと味わいたい人間なんて、そうはいない。


『……バイバイ』


 でも、目標を下げた結果に待ち受けるものが悲劇なら、この苦しみをずっと味わっていた方がマシだと思う気持ちもあるのは事実。


 ……一体、どうしたらいいんだろうな。


「あっくん」


 俺の肩に頭を乗せたまま、優しい声色で話しかけてくる人がいた。


「目標、下げちゃいなよ」

「……え?」

「あたしはもういなくならない」

「……あ」

「そうなればあっくん。もう頑張る必要なんてないんでしょ?」


 ……そうか。


「そうしたら、あたし達、ずっと一緒にいられるんだよ?」


 確かにそうだ。


「……留学なんて諦めて、ずっと一緒にいよう?」


 奏は俺の腰に腕を回してきた。


「ね? 一生、どちらかが死ぬまで。ううん。どっちかが死んだ後も……一生、一緒にいよう?」


 ……奏の甘い囁きを聞き。


「……わかった」


 俺の意思は固まった。




「俺、目標は下げない……っ!」


 


 しばらくの沈黙の後……。


「う、うぇええぇえっ!?」


 奏は取り乱した顔で、俺を見た。


「確かに、ここで目標を下げればこの苦しみからは解放される」

「……ぁぅ」

「でも、それだと俺はきっと、ずっと君に甘えたままになる」

「……ぇぅぇぅ」

「そんなこと、俺は望んじゃいない」

「……ぅぅぅ」

「俺は、君を救えるような人になりたいんだ」


 だから……俺は目標は下げない。

 奏に甘い囁きをされ、自分の真なる思いに気付けたからこそ、宣言出来る。


「奏、ありがとう。君のおかげで目が覚めた」

「あ……あっくん。その……」


 電車が自宅最寄り駅に到着した。


「じゃあね奏。俺、頑張るから」

「……あっくん」


 背中に聞こえた奏の声は、いつになく弱々しかった気がした。

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― 新着の感想 ―
やべー女が暴走するのかと思ったらやべー男がそれを上回る暴走する話だった
実は主人公のほうがやばいやつなパターン
あれ?主人公の方がヤバいのか?
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