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鬼姫と呼ばれていたあたしが、命がけで人を助けたら気弱な貴族令嬢に転生していました。(意外と順応してますが、拳は健在です)  作者: seika


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この世界の婚約者

「またお前か……メイド服……」


「もおーー、私は専属メイドのフィ・オ・ナです! 忘れちゃったんですかぁ! うえぇん、あの優しいミリア様が豹変したままなんて……ハッ!! まさか、悪魔に取り憑かれたのでは……」


盛大なディスりにしか聞こえない。


「えーと、専属メイドってことは、あたしの世話をするってことか?」


「え? それはもちろん……って!! あーーー!! な、なんで何も着てないんですかぁ!! ご令嬢が!! そんな生まれたてのお姿で! お客様が見えたらどうするんですか!」


フィオナが暴走している。メイドってのはお淑やかで可愛らしいもんじゃないのか? でもなんだ、この小動物を相手にしているような感覚は。ぶんぶん揺れるポニーテールが尻尾に見えて仕方がない。


「そそそ、そういえば!!ルーカス様が、来られてるんです!!」


ルーカス、なんか聞いたことあるような……。


「それは誰だ?」


あたしが首を傾げると、またしても信じられないといった顔をしている。


「なに言っちゃってるんですかぁ!! ミリア様の婚約者ですよ!!」


「あー、婚約者か……」


なんか、もうどうでも良くなってきたな。


「婚約者かぁ……っじゃないですよう!!さっさと準備していきますよ!!」



あたしの抵抗なんかお構いなしで凄いスピードで服や髪をセットしてもらい、どっかのパーティーに行くみたいな仕上がりになった。ドレス選びは一番マシな紺色のドレスで妥協した。


凄い。

凄いが、コルセット? 

というものは、やばい。

腹が締め付けられてるから何か食べようものなら終わる気がする。


あたしを殺す気か? とフィオナに問いかけると、「ご令嬢はみんなつけてるので、死ぬわけありません!」と一仕事やりきったように、汗を拭きながら満面の笑みを浮かべた。


ご令嬢?

女はみんなこれを付けてるというのか。

どこの国の決まりだ? 外国か?

ここの女どもは侮れないかもしれない。


そんな敵意を燃やしながら、婚約者が待っているという屋敷の庭園に連れてこられた。綺麗だ。手入れが行き届いてるのが素人のあたしにも分かる。


案内された場所にふんぞりかえって座っている男が婚約者だそうだが、過度な装飾品があしらわれた服を着ている。こんなの着てたら目立ってしょうがないだろうに。



「……あ」


思い出した! ルーカスだ! 夢でミリアのことをボロクソに言ってた男じゃないか。


勢い余って指をさしてしまったあたしを見るなり、ルーカスは怪訝な顔をした。


「お前、ほんとに食中毒か? 俺を指さす元気があるみたいだが……まさか、あんなこと言った当てつけに嘘をついたんじゃないだろうな?」


ルーカスの上から目線の態度に、あたしの表情筋が強張る。


「あんなこと?」

「お前を愛さないって言ったことだろ」


ああ、あの言葉……ってことはあれはやっぱり現実で起きた事なのか。あの兄もミリアは毒で倒れたとか言ってたもんな。この婚約者が嫌になって自ら毒を盛ったというわけか。




「……い! おいっっ!!」


あ、そうだ。こいつと話していたんだっけ。


「貴様、俺の話を聞かないとは、いいご身分だな」


ティーカップを乱暴に置く音が響いた。そんな苛立っているルーカスに疑問を投げかけた。


「愛さないってのは……どういう意味だ」


「なんだ、理解していないのか? そのままだろ。俺が誰といようと、側室を何人迎えようと今回のような真似はするなよ。お前はただ人形みたいに大人しくしていればいいんだ」


こいつの言っていることはよく分からない。だが、舐められて馬鹿にされているのだけは分かった。


「また泣き出すか? いい加減もう見慣れて――」


悪態をつくルーカスの前に立ち、ニコッと微笑んだ。


「な、なんだよ……」


一瞬動揺したルーカスの頬に強烈なパンチを喰らわせた。



「きゃああぁ!!! ルーカス様!?」


ふん。

やわな男だ。


ルーカスを好きなミリアが、自分を殴って気絶させるなんて夢にも思わなかっただろう。遠くで控えていたルーカスの騎士やメイド達が集まってくる。


こんな奴の婚約者なんて、勘弁して欲しいものだな。

騒いでいる連中を無視し、あたしは部屋に戻った。



ベッドの上で脚を伸ばして楽な姿勢になる。

ちらりと窓の外を眺めるが、見覚えのない景色があたしの目に映り、流れていく。歩いている人も建物も、見慣れた東京のものではない。


「はぁ……変な奴らばっかりだ」


そうぼやいた瞬間、ガタガタっとドアの向こうで音がした。


数秒の沈黙があり、小さな咳払いが聞こえ、部屋のドアを誰かが叩いた。


「あの……ミリア? 入ってもいい?」

「誰だ」


あたしのドスの効いた声に驚いたのか、まだ返事をしていないのに勝手に部屋に入ってきた兄は、明らかに動揺していた。


「僕は君の兄じゃないか。記憶障害とか、じゃないよね?」


兄は不安そうにベッドの端に腰を下ろした。


「どうしたの?今日はその、ルーカス様を……殴ったそうじゃないか。あんなに慕っていたのになぜ……」


「腹が立ったから殴っただけだ」


兄の疑惑を、あたしは一言で片付けた。


「君は……本当にミリアなの? まるで別人だ……」


心底驚く兄。

無理もない。

なんて答えるべきか。


あんたの妹じゃない。

なんて言っても信じてもらえないか、最悪ここから追い出される。それは困る。


「……そんなことはない、元からだ」


よし、誤魔化そう。


「いや、それは無理があるよ。今までそんな感じじゃなかった。口調や行動だって野蛮に……ミリアが急に変わってしまってお兄ちゃんは……」


野蛮って、言ったぞ。この世界じゃ、あたしは野生児とでも言うのか。


「……なら、あいつに従えばよかったのか? 怯えたまま、飼い慣らされるのか?」


だから自殺したんだ。という言葉はさすがに飲み込んだ。


「ミリアは人間とも思われてない。あれは婚約者なんかじゃない」


その意表をついた言葉に、兄は絶望に打ちひしがれているようだった。


「……そう、だね……」


俯いた兄の声は震えていた。


なんだ、あいつの正体は兄も知っているようだな。なのに、なんで婚約をやめないんだ。この女があいつのことを好きだからか? ならーー。


「あたしはあんなやつ、もう好きじゃない。だから婚約をやめても構わない」


あたしの言葉に兄は目を見開いた。

悪いな。でもあんな奴と結婚しない方が絶対いいと思うぞ。


だが、兄は口を閉ざしたままだった。


「……少し、考えさせて」


それが、数分経って兄から出た言葉だった。


本人がやめたいと言ってるのに難しいものなのか? 婚約なんかしたことないが、「婚約者の浮気を知って婚約破棄しました〜」なんて言ってる奴はそこら辺にいたぞ。


この世界じゃ、何かが違うのか?


うーん。

とにかく……この苦しいドレスを早く脱ぎたい。

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