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鬼姫と呼ばれていたあたしが、命がけで人を助けたら気弱な貴族令嬢に転生した話(意外と順応してますが、拳は健在です)  作者: seika


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1/6

事故

「姉御! 今日もゲーセン行きましょー!」


 あたしの後ろを雛鳥みたいにくっついてくる相馬。一学年下のこいつは、どうやらあたしに憧れているらしく、いつもこんな調子だ。ピアスを自分で開けるタイプの人間でもある。あたしは病院で開けてもらったが、あの時は痛すぎてもう開けないと誓った。


「あー、でもゲーセンにたむろってる奴ら、うるさくないっすか? 姉御、さくっとぶっ飛ばしちゃってくださいよ!」


「はあ? なんであたしが……」


「何言ってるんっすか! 姉御は伝説のヤンキー”東京の鬼姫”じゃないっすか!」


 興奮した声を上げながら、相馬は胸を張った。


「頭は……まあ、よくはないっすけど! でも腕っぷしと面倒見の良さは東京一っす! ヤンキー五十人相手にたった一人で! しかも武器なしっすよ!? 伝説っす!」


 相馬が武勇伝のように語っているのは、仲間が拉致されたと聞いて助けに行った時のことだ。


 鬼の形相で乗り込んだあたしを見て、下っ端どもは逃げ出し、残った奴らは背負い投げとパンチだけで片付けた。まあ、空手をやってたのが素手で済んだ理由だろう。


 あれ以来、ただの女子高生だったあたしには「鬼姫」という変な通り名がついてしまった。


 しかも、相馬がせっせと「鬼姫」と背中に書かれた特攻服を仲間全員に作りやがったせいで、ここら一帯ではすっかり有名になってしまった。白地で羽織るタイプだから、意外と今風で格好いい。着心地もゆったりしていて楽だし、文句を言いながらも結局は愛用している。


「あんときは、お前らが連れ去られたんだから、当たり前だろ」


「あ、姉御おおぉ!!! 男らしいっす!!」


「こらこら、亜耶を困らせんなよ」


 みんなの兄貴分である悟が、相馬の首根っこを掴み、あたしに飛びつこうとするのを制した。ヤンキーのくせに髪を染めたことが無いらしい。呼び出されるのが嫌だからって言ってたけど、結局イケメンはどんな髪色でも女子にチヤホヤされる、ということが判明した。


「ったく、お前もこんなに好かれやがって。この調子で何人連れてきたんだか」


 後ろを振り返ると、ぞろぞろとあたし達の仲間がついてきている。いつの間に、こんな大所帯になったのだろうか。あたしだってチームに入れる奴はちゃんと選んでいるつもりだ。もっとも、あたしみたいに親に捨てられたやつらが多すぎるだけなんだけど。


「最初は俺と亜耶だけだったのに。誰かさんが目立ったおかげでチームは拡大するし……まあ、ここにいるやつらは、みんなお前に憧れてる奴ばっかりだからしょうがないけど」


「あたしはただ、こいつらを……いや、あたしの居場所を守りたかっただけだ」


 居場所があるおかげで、あたしの日常はそれなりに充実していた。この先も仲間と一緒に過ごしたい。この生活を邪魔する奴がいたら、鬼姫の名にかけてぶっ飛ばしてやる。そう思っていた。


 ーーこの日までは。



 * * *



『2番ホームに電車が参ります。黄色の線までお下がりください〜』


 お決まりの車内アナウンスが流れる。


 なんだあいつ。ふらふらした足取りで黄色の線からはみ出そうだな。ちゃんとルール守れよ、とメガネをかけた男をガン見した。


 酔ってるのか?

 でも同じ学生みたいだし。

 それに、あいつの顔どっかで見たことがあるような……。


「姉御、なにぼーとしてんっすか! もうすぐ電車来るっすよ!」


「あ、あぁ、そうみたいだな……」


 相馬に声を掛けられ、あたしは少しだけメガネの男から視線を外した。



 その瞬間。


 男の体が線路に吸い込まれるように落ちていくのが、スローモーションのように目の端に映った。


「っ……おい!!!」


 あたしは反射的に線路に飛び込んだ。すぐにメガネに駆けつけ、肩を揺さぶるが反応がない。体を起こした時、指先から生温かい感触が伝わった。見下ろすとあたしの手は赤く染まっている。メガネは頭から血を垂らしていた。


「姉御!! 何してんっすか!! 早く上がってきてください!!!」

「亜耶……っ!! 早く!!!」


「きゃあっ! 嘘!! 人が線路に!!」


 近くにいた女性の悲鳴がホームに響いた。続々と人が集まってきて、口々に青年に大声で呼びかけるが、やはり応答はない。このままではメガネは轢かれてしまう。


「やばい……電車が来るぞ!!」

「おいっ! 駅員はまだか!!」


 電車の前照灯ヘッドライトがトンネルの奥で黄色く光っているのが見えた。


「間に合わない……」


 そう悟ったあたしは、メガネの腕を自分の首に回した。


「ちょっ……! 姉御!!」


 うるさい。こんな風に見殺しにできるわけない。


 そいつをずるずると引きずって、上にいる大人達にメガネを引っ張ってもらった。そしてあたしは、悟と相馬の手を強く握った。電車がホームに差し掛かり、大きな音が鳴った。


 二人はあたしを引き上げながら、ほっとした笑みを浮かべた。

 大丈夫だ。この距離なら間一髪、助かる!



 ――はずだったのに。




「姉御ぉぉお!!!」


「亜耶っ!!!」



 クラクションが鳴り響き、何かにぶつかる衝撃と、鉄の匂いがした。







 何も・・・見えない。

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