第8話 豆ダンジョン
第2階層にやってきた。
「兄貴。ここの敵は『エルダーソイ』ってやつで、さっきの魔物『ヤングソイ』が茶色になった感じの見た目っす。豆は飛ばしてこないっすけど、代わりに茶色のくっせぇ汁を飛ばしてくるんで、気をつけてください。目とかに入ると悲惨っす」
「ソイって……やっぱり大豆じゃねーか。
え? ヤングソイってことは、さっき飛ばしてきたのは枝豆か?」
「そうっすね。塩ゆでして食うと美味いっす。ビールのお供っすよ」
「じゃあ、くせえ汁って、もしかして醤油――」
「あっ! 兄貴、後ろ!」
ぶしゃーっ!
「ぐはっ!? ぺっぺっ! この味! やっぱり醤油じゃねーか!
おい、何か容器もってねェか!? 作るまでもなく完成品があるなんて最高かよ!」
「兄貴、ポーションならあるっす。中身すてて空き瓶使うっすか?」
「それだ! よし、貸してくれ!」
連結の罠でエルダーソイを地面に連結。これで移動を封じた。
さらに連結の罠を多重発動。がんじがらめにしてピクリとも動けなくしてやる。
そしたら空き瓶をエルダーソイの鞘に添えて。
「オラ! 吐けコラァ! ちゅーっと吐き出しやがれ!」
牛の乳搾りをやる要領で、ぐいぐいっと。
黒い液体がぶしゃーっと出て、空き瓶を満たした。
「醤油ゲットだぜ!」
こいつがあれば、だいたい何でも食える味になる! 最高の調味料だ!
調理法も、たいがい焼くだけでいいからな! 簡単! 便利! 美味い! 完璧な調味料だ! しかも大豆から作られ、大豆で作った豆腐や油揚げにかけても美味いんだから、大豆ってのはマジで完璧な食材だぜ!
このダンジョン、もうここまででいいんじゃねーか?
「サムソン、この下の階層って、どんなのが出るんだ?」
「レッドビーンズ、キッドニー、ピース……その先は知らないっす」
指折り数えるサムソン。
小豆、いんげん豆、えんどう豆か。
大豆ほど欲しい食材ってわけでもねェな……あんこか赤飯でも食いたくなったら、小豆は集めに来ようかな。
「お前らって、甘い物は好きか?」
「あ、甘い物っすか……? そりゃ、まあ……好きですが……」
「じゃあ、レッドビーンズまで倒してから引き上げるか」
◇
「お前らって、甘い物は好きか?」
「あ、甘い物っすか……? そりゃ、まあ……好きですが……」
好きか嫌いかで言ったら、好きなんだよなぁ……どっちかっつーと。
でも酒のツマミに甘い物はあんまり合わねェから、好んで食うってほどでもねェんだけど……。
兄貴は、何でそんな事を……? 食い物の好みを聞くなら、最初は酒からだろうに。
「じゃあ、レッドビーンズまで倒してから引き上げるか」
「……? ……? ……?」
レッドビーンズと甘い物に、何の関係が?
レッドビーンズなんて、サラダに混ぜるか、スープや煮込み料理に混ぜるか……どう食っても甘くはならねェ。
兄貴はレッドビーンズを甘くした料理を知ってるってことか? バランみたいに、兄貴も料理が得意だとか……?
いや、しかし……兄貴が料理……い、イメージわかねぇぇぇ……! バランに「公園で無料配布しろ」とか料理人としての修行方法を指導してたけど、他の説教も聞いてると、料理人っつーより経営コンサルタントっつーか……なんか、そっち系のニオイなんだよなぁ……。
「……! ……? ……!?」
ま、まさか……!
ローズに近寄ろうとしてるのか!? 見た目は好みって言ってたし……兄貴の説教なら、あのローズも性格がまともになる可能性は……い、いや、あのローズが……? それもイメージできねぇぇぇ……!
兄貴がローズに惑わされて……ってのも考えにくいが、あいつに壊されたパーティーのメンバーだって、もう引き返せねェところまで壊れちまうまでは、そう思っていたはず……!
だ、ダメだ……! 俺が兄貴を守らねェと……! でも、どうやって!? 俺にはあんな容姿のいい女の知り合いは居ねェ……!
「よーし、こんなもんでいいだろう。帰るぞ、サムソン」
「へい、兄貴」
どうする!? どうする!? どうする!?
いい考えなんて浮かばないまま、街へ戻ってきた。
兄貴は大豆を買い取りに出した。
「凍ってますね……凍らせると味が落ちるんですよねぇ……」
受付嬢の辛口コメント。
査定額は、また銀貨1枚。
5kgは集めてきたから、銀貨5枚ぐらいになる量なのに、凍らせたばっかりに……。
「あ、兄貴……」
「アリガトウゴザイマシタ……」
あ、兄貴がしょぼくれてる……!
「チョット出カケテクルワ……」
お、男が落ち込んだ時に向かう先……女のところじゃねーか!
あ、兄貴……! それはダメだ! ローズに関わるのはダメだァァァーッ!
ちくしょーっ! 俺が何とか……! 俺が何とかしねェとォォォ!
「……はっ! そ、そうだ!」
あれだ! あれしかない!
か、覚悟を決めろ、俺ェ! 兄貴の……命の恩人のためだァァァーッ!




