第7話 ローズ
豆ダンジョンにやってきた。
豆ってやつは、だいたいが「草」に分類されるが、例外的に「木」に分類されるものもある。でもまあ、第1階層で出てきたのは「草」だ。
「大豆じゃねーか」
どう見ても大豆だ。
腰の高さぐらいの直立した草だ。
しかし地面に埋まっとるわけではなく、地上を歩いている。
前に2本、後ろに1本、根っこを足のように広げて、前足を交互に動かしつつ、後ろ足を引きずるようにして進む。なんとなくシャクトリムシみたいな「虫っぽい動き方」だ。定点観測で撮影した生長の様子を早回しで見るときのような……ということは、あれで「植物らしい動き」という事なのか。解せぬ。
「兄貴、そいつは近づくと豆を飛ばしてくる――」
パァン!
破裂音とともに鞘から豆が飛んできた。
レベル差が大きいから、ダメージはないが。
「鬼はァ~外ォ~! じゃねーよ!
先に言え! 直撃したじゃねーか!」
パァン!
「あ……兄貴、直撃したのにダメージないんすか……?」
パァン!
「当たり前だ! 俺に効くか、こんな豆鉄砲がァ!」
パァン!
「うるせえ! この豆が! 黙ってろォ! しつけーんだよ!」
とりあえず埋没の罠。
ズボッと埋まった大豆が、抜け出そうともがく。
植物のくせに土から出てこようとすんじゃねェ! てか、その状態からでも豆は飛ばせるだろーが! 撃ってこいよ! 慌てん坊か、テメエ!? さっき始めたばっかの初心者プレイヤーの初戦闘かっつーの!
カチッ。
埋没の罠から抜け出した大豆が、その手前に設置したもう1つの罠にかかった。
凍結の罠――青白い光が広がって、大豆は瞬時に凍りついた。
「……え? 終わり?」
大豆は凍ったままピクリとも動かない。
看破スキルで見てみると、残りHPがゼロになっていた。
「マジかよ……ザコすぎんだろ」
「あ、兄貴……バランが居なくてよかった……」
「あ?」
「そのザコに死ぬほどやられたのがバランなんで」
バランはザコ以下。
鍛えろバカヤロー! どーすんだ、この地獄の空気ィ! こっからどうフォローしろってんだよ!? マジでバラン居なくて良かったァ!
「う……あ、あー……その……あ、相性が悪けりゃ強敵だな。うん。たぶん。きっと。しらんけど」
必死のフォローを考えていると、後ろから声が聞こえた。
「すっごーい! お兄さん強いんですね!」
振り向くと、どこのアイドルかと思うような可憐な少女が立っていた。
顔面偏差値高ェなオイ!?
するっと近づいてきた少女が、俺の手を取り、両手で包む。
「お兄さんたち、2人だけのパーティーなんですか? アタシも仲間に入れてほしいなー?」
ち、近い……! どこのアイドルの握手会だよ!?
キラッキラの笑顔がまぶしいな。俺にそういう趣味は無いと思ってたんだが、アイドルオタクの気持ちが分かる気がする。
だが、こいつは奇妙だ。いきなりこんな距離の詰め方をするやつが「まとも」なハズはねェ。
「兄貴。こいつはダメっす」
「サムソン? 知ってるのか?」
「パーティークラッシャーのローズ。有名っすよ。
あちこちのパーティーに入って、メンバーの関係をぐちゃぐちゃにしたあげく『なんかギスギスしててつまんなーい。アタシもう抜けるねー』とか言って去っていく。あとに残されたメンバーはパーティーを維持できなくなって解散するんすよ。しかも去り際にちゃっかりパーティーの資金やらアイテムやら持ち逃げする糞女っす。
迷惑だけど、やってる事は合法だから誰も取り締まれない。こいつには近づかないのが一番っすよ。人生壊されるっす」
「ああ、そういう……マジか。居るんだな、そういうの」
大学のサークルとかに「出現する」という話は聞いたことがある。
だが、ネットの中での情報だ。どうせ「盛った話」だろうと思ってたが、現実に存在するとは驚いた。
「ちぇー……バレてるならしょーがないや。
じゃーねー」
女はひらひらと手を振って立ち去った。
あっけらかんとしたものだ。
悪びれもせず、引き際を心得てやがる。ありゃァ相当なやり手だな。
「……ま、長生きはできねェ生き方だな」
若いうちは通用する。ちょっと整った容姿と、ウケのいい言動をしていりゃあ、間抜けな男のほうが勝手にチヤホヤしてくれる。
だが10年もしないうちに、そのやり方では「若さ」が通用しないレベルまで落ちる。銀座の高級クラブのママとかみたいな「本物」なら別だが、ああいう「偽物」は勝手に落ちぶれて自然消滅するだろう。あるいは、別の方法を覚えて、もっと悪辣になっていくか……まあ、その場合には法に触れるから長続きしないのは同じだ。
「しッかし、惜しいな……見た目はけっこう好みなんだが」
「兄貴!? ダメっすよ!?」
「分かってるよ。……はァ……」
俺ってこっちの世界でもモテないままなんだろうか。
あー! 彼女ほしー!




