第6話 猛進! 守銭奴竜人!
「え? 銀貨1枚で泊まれて飯も食える宿?」
300体近いオークを売ったのに、銀貨1枚の稼ぎだった。
銀貨1枚といえば1000円ぐらいの価値だ。
俺はこのお金を最大限に活用するべく、バランとサムソンに知恵を借りようとしたが……。
「兄貴……そりゃさすがに無いっすよ。素泊まりの安宿でも銀貨3枚はしますって」
何をバカなことを言ってるんだろう、と言わんばかりに苦笑しやがる。
ぐぬぬぬ……!
「バランもサムソンも、肝心な時に役に立たねェ……!」
「あ、兄貴……そりゃヒデェよ……」
「あんまりだ……兄貴、そいつは無茶振りがすぎるっす……」
「うっせー! バーカ、バーカ!」
銀貨1枚。
飯を1回……節約しても2~3回食ったら、なくなる金額だ。
「まだ午前中じゃねえっすか。
兄貴、今から依頼の1つも片付けりゃあ、もうちょい何とかなりますって」
「そうっすよ。冒険者なんすから、これから働く時間じゃねえっすか」
バカ言ってんじゃねえ! こいつら、人の気も知らねえで! 俺は今すぐ休みたいんだよ!
この街に到着するまで2週間ばかりサバイバル生活だったから、飯に困るのは別にいい。だがもういい加減に、まともなベッドで眠りたい。目覚めるたびに体があちこち痛かったり、疲れが抜けないままダルい体を引きずって動くのはうんざりだ。
こうなったら、稼がねえと……!
「おいバラン」
「へい兄貴」
「お前、ダンジョンでドジ踏んで死にかけたっつったな?」
「へい……面目ねぇことで」
んで、サムソンが連れ帰ってきたところで、俺と出会ったわけだ。
「もう1回行くのは怖ェか?」
「あ、兄貴……! それは……!」
「サムソン! てめーは黙ってろ!
どうだ、バラン? 怖ェから諦める……お前の料理人の夢は、そこまでか?」
もちろん、それはトラウマだろう。
消防士が火災現場で死にかけたあとに、もう1回現場へ復帰するようなものだ。
あるいは兵士が、瀕死の重傷を負ったあとに、もう1回戦場へ行くようなものだ。
交通事故で死にかけた人が、もう1回その現場へ行くのとは、わけが違う。もっと高確率で、危険は向こうからやってきて、こっちを殺そうとしてくる。
「兄貴……俺、諦めたくねぇっす! でも……正直、怖ェっす……」
バランは強がるように俺を見て、耐えきれなくなったように目をそらした。
よかった。
こいつには、まだ希望がある。
「バラン。しばらく休むのは良い。誰だって動き続けたら疲れるもんだ。
休んで、また歩き出しゃァ良いんだ」
救急車や消防車に乗るような人たちってのは、どういうわけだか「飯を食おうとすると出動しなきゃいけなくなる」という呪いにかかっている。現場に急行して火災やら怪我人やらを片付けて、やれやれと署に戻って今度こそ飯を食おうと思うとまた出動……てことが不思議とよくある。
それが3回も4回も重なると、腹が減ったまま3時間も4時間も「おあずけ」を食らったまま人命救助に駆けずり回り、緊張の連続だ。たまりかねてコンビニに駆け込み、すぐに食えるものをと物色していると……何も知らねえクソみたいな野次馬が、けしからんだの何だのと苦情を入れやがる。
ちょっと違うかもしらんが、バランは今ちょうどそんな感じだろう。どうにもならねェ苦しみに、逆らいたくとも逆らえねェのがまた苦しい。
「兄貴……」
「けど、『休みすぎ』には気をつけろよ? もういっぺん歩き出すタイミングが分からなくなっちまう、て事があるもんだ。最初に『何日休む』と期限を決めておけ。決めた期限が来たら、お前の夢を思い出せ。
でもな、そん時だって、『今から歩く』のか『もうちょっと休む』のか考えていいんだ。期限を決めるのを忘れるな。危険なことは、ズルズル休み続けて腐っちまうことだ。
いいか、バラン! お前の夢は! まだ死んでねェ!」
「「兄貴ィ!」」
だばーっと泣き出すバランとサムソン。
つーわけで。
むんず、と俺はサムソンを捕まえた。
「あれ? え? 兄貴?」
「行くぞ、サムソン。俺の宿代を稼ぎに! ダンジョンはどっちだ?」
「え? え? ええええ!? 兄貴、休むんじゃ……!?」
「バランは休みだ! 瀕死の重傷から復活したばっかなんだぞ? 血が足りねェよ。フラフラのまんまダンジョン行ったって、また死にかけるのが落ちだ」
「あ、兄貴ィ……!
でもそれを言ったら、俺もバランをかついで徹夜で歩いて帰ってきたんすけど……」
「お前は働け! 仲間が苦しい時ァ、支えてやるのが役目だろォが!」
「兄貴ィ! 俺が間違ってたっす!」
「おら、さっさと案内しろ!」
「じゃあ一番近い豆ダンジョンに行くっすよ!」
ドタドタドタ……!
「い、いってらっしゃいっす……。
……はァ……兄貴の言うとおり、休もう……。
けど、サムソンに頼ってばっかりじゃいられねェ……!
休むのは……今日1日だけだッ」
ぐっ、とバランは拳を握った。




