第5話 かくてオークエンペラーは誰も知らぬ間に消え去った
「え? こんだけ?」
解体場へオークどもの死体を山のように出したのだが。
数百体のオークの、その売値が――
「ぎ……銀貨1枚……」
査定を待つ間にバランとサムソンから聞いたところによると、この世界の通貨は、金貨・銀貨・銅貨・銭貨の4種類。銭貨ってのは卑金属製のコインで、おそらく主成分は鉄だが混ぜ物が多すぎて鉄より遥かに割れやすいらしい。
で、物価と比べておおよその価値も把握できたんだが、銀貨1枚ってのは1000~3000円ぐらいのようだ。
300体近くもオークを売って、儲けが1000円かよ!? 1体10円にもならねぇ! と、今の俺は愕然としているわけだ。ところが解体場のおっさんは、驚く俺に深々とため息をついた。
「あのなぁ……ここから解体して売りに出すからこそ、『仕入れ値』として買取額を支払うんだよ。仕入れたものがボロボロの状態じゃあ、売るに売れねぇだろーが。皮もダメ、骨もダメ、内臓も破れて肉も汚染……凍らせてあったから鮮度はマシとはいえ、ミンチにしたって売れねぇよ」
あー……爆発系の罠で吹っ飛ばしたから……。
内臓が破れて肉が汚染ってのは、腸が破れて「中身」が出ちゃったってことか。
そりゃウ■コまみれの肉なんか誰も食いたくねぇ。俺だって食いたくねぇ。
だが埋没の罠に埋める前に凍結の罠で凍らせたのは有効だったか。今後の参考にしよう。
「なんとか使えそうな所を探しちゃァみたが、解体の手間賃を引いたら買取額はそんだけだ。正直いって、廃棄の手間賃もほしいぐらいだぜ。
まあ、数も多くて相当上位のオークも居たみたいだし、綺麗に倒そうなんて余裕がなかったのは分かるけどよ……痛み具合が全部同じってことは、短期間にあの数を倒したんだろ? なら実力はあるんだ、今度からは相手を選んで、綺麗に倒してくれよ。な?」
な? と肩を優しく叩かれた。
うぐぅ……! 門番みたいに大笑いしてコケにしてくるのはムカつくけど、こう優しく言われたんじゃあ「何をゥ! この野郎ォ! よーし、今度は見てやがれ!」と反抗心燃やすわけにもいかねぇ……。
◇
しょぼくれて出ていく男の背中を見送って、俺ァわくわくしていた。
見たことねぇ新顔で、冒険者証もFランクだった。てことは、登録したばっかりなんだろう。
冒険者ランクは、登録した後の実績に応じて変動する。たとえ世界一の剣豪だろうと宮廷魔術師だろうと、誰だって登録直後はFランクだ。つまりあいつも、そういう事なんだろう。実力がないんじゃあない。実績がないだけだ。
「まったく、どえらい新人が現れたもんだぜ」
あの数を短期間に倒したってことは、豚ダンジョンに挑んできたんだろう。下位のオークが少なくて、上位のオークが多かった。浅い階層は急いで通り過ぎてから、深い階層で大暴れしたってわけだ。実力者ムーブだな。
持ち込んだ素材はボロボロだったが、一番でかいやつは7m級だった。つまり最低でもオーク元帥。もしかしたらオーク王。オーク皇帝まで倒したらクリアになるから、そしたら情報が出回ってギルドは大騒ぎになっているはず。
つまりあいつは、ごく最近、クリア寸前まで行ったってことだ。
「おはようございまー……うわっ!? すげー数のオーク! どうしたんすか、これ!?」
「おう、おつかれ。今日の遅番は掃除が大変そうだが、頑張れよォ」
「うへあ……マジっすか……。
てか、マジでどうしたんすか、これ? ミートピアがオーク帝国に襲われたって聞いたんすけど、その素材がこっちまで来たんすか?」
「うん? ああ、そういやそんな話もあったな。隣の領地のことだし、詳しい事は分からんが……そう言われてみりゃあ、そういう可能性もあるか……?
いやでもオーク帝国ってことは万単位のはず……ここにあるのは、300体ぐらいだぞ?」
「そりゃあ、こんな遠くまで運んできて『全部解体してくれ』ってことはねぇでしょう? あちこちの街へ分散してんじゃねえんすか?」
「だろうけども、だとしてもだ。大型のやつが多い。オーク帝国に襲われたならミートピアも無事じゃあすまねえだろうし、そしたら上位種の素材なんて復興資金にするだろうに、わざわざ隣の領地へ持ち出してって事ァ……あ? そういやあいつ、妙に立派な服装だったな……まさかミートピア伯爵の騎士……?」
騎士が変装して冒険者に……? なんでわざわざ……ベジタブルヘルズ伯爵は買い取りを拒否したのか? 被災地を見捨てるほど関係が悪くなってたっけ……?
なんだ……? 何が起きてんだ……?
ざわざわする……こいつァよくない予感だ。
「あー……この件はむやみに喋るんじゃねえぞ。あとでどっかから圧力がかかるかもしれん。
ちょっと支部長んトコ行ってくるわ」
報告しとこう。
俺みたいな一般人にゃあ「知らないほうがいいこと」ってのもあるもんだ。
この件は、踏み込まねえほうがいい気がする。
こういう予感は、外れてくれたほうがありがてェんだが……。
「はァ……」
ちらっとオークの山を見て、ため息がもれた。
やれやれ、面倒くせぇ……。




