第13話 バラン、叩き売りの才能
――あいつの叩き売りは上手かった。
後に椿は回想する。
苦手なものに取り組む時、人は自分がどこにいるのか分からない状態になる。だから正しい方向へ進みたくとも、どの方向へどれだけ進めばいいのか分からないで迷ってしまう。
つまり「才能がある人」てのは、その逆だ。暗闇の中で音を頼りに正しい方向を探るのが凡人だとすると、才能がある人は暗闇をはっきり見通せる。だから自分がどこにいるのか、どの方向へどれだけ進めばいいのか、凡人よりもはっきり分かる。だから、少ない練習でも上達が早いのだ。
◇
「さあ、お立ち会い! ご用とお急ぎでない方は寄っといで! 俺は料理人を目指すバラン! まだまだ修行中の身ではあるが、いちおう人様に出しても恥ずかしくない味は作れるようになったつもりだ! しかし果たしてお金を払うほど美味いのか!? タダなら食うが、お金を払ってまで食いたいもんじゃあないと言われるのが心配でたまらねえ! じゃあ聞いてみりゃいいじゃねえかって事で、今日は無料の試食会だ! お代の代わりに感想のひとつも教えてくれ! 今日の料理は、世にも珍しい、甘い豆料理だ! 小腹がすいたお兄さんお姉さん! おやつ代わりにひとつどうだ!? どうせタダなら損はしねえ! ちょいとひとくち食っていきねえ! さあ、寄った寄った! 早い者勝ちだよ!」
バランが公園で無料配布を始めた。
荷物運びで同行したが……こいつ、料理人としてはまだまだだけど、売り子としては天才じゃね?
俺ァてっきり、ティッシュ配りみたいにやるもんだと思ってたんだが……飛ぶように売れる。代金もらってないから「売れる」とは言わねェが、あっという間にさばけていく。
「いやぁ~、タダだとすぐ無くなるっすね」
「お前がうまいんだよ」
「バラン、あんたそんな才能があったのね」
サムソンと2人して、普通に感心してしまった。
「こういう売り方が向いてるのかもな。
客に話しかけながら売っていくスタイル……屋台をやると強そうだ」
「でも、おはぎを売るには、屋台じゃあ無理じゃないかしら? 作るのに、きちんとした厨房が必要よね?」
「そこだな。バランは料理人としてはまだまだだ。料理人を目指すったって、何を売るかも決まってないんだろ?」
どこかで厨房を借りて、作り置きして屋台で売るというのは不可能じゃないが、作ってから売れるまで保存する方法には工夫が必要だ。
冷蔵庫とか無いからな。時間停止機能付きのマジックバッグなんてのがあるらしいが、高くて俺たちの稼ぎじゃあ買えねェ。
「そうなんすよね〜……売りたいものがあって、その味を追究するって感じじゃあないんで」
「そもそも、どうして料理人を目指すんだ?」
「それしか出来そうにないからっす。
生まれは農家の三男坊で畑を受け継ぐことはできないし、どっかの商人か職人に弟子入りして――って道も、親のコネがないと無理っすから。
そうなると冒険者になるしかないけど、それも才能なくて5年も豆ダンジョンの第1階層から先へ進めないままっす。
こうなったら、屋台でもやるしかないってことで、料理人を目指すことにしたっす」
「消去法かよ……見事な転落人生だな」
「でも屋台には向いてるって兄貴が言うんだから、人生これからよ。ね、兄貴?」
「いやぁ~……こいつは、このままだとダメな気がする」
「ひでえ! 兄貴、そこは慰めてくれるとこじゃないんすか!?」
「向いてないのかしら?」
「売り子には向いてる。けど、料理人にも商売人にも向いてねェな。
どういう客を狙っていくのか、てのが見えてねェじゃねーか。だから何を売るのか決まらねェ。客が求めるものが分からねェんだから当然だな」
「な、なるほど……!」
「まあ、そういう時は、詳しく知ってるやつを客にするといい。冒険者だったら、どういう料理を売ればいいか分かるだろ? 仕事に持っていけるようなものか、あるいは戻ってきたときに食いたくなるようなものか。どっちも身をもって体験してんだろ?」
「それじゃあ、兄貴……仕事に持っていける、美味い保存食がいいっす。干し肉はあんまり上手くないし、栄養も偏るんで……あと種類が豊富だと嬉しいっすね」
「ふぅん……じゃあ、オニギリみたいな感じか。
あー、でも炊飯する所がないんだった……じゃあサンドイッチはどうだ?」
「サンドイッチ……それなら味も保存もそれなりで栄養もそこそこ整うわね。種類も増やせるし」
「そうだ。何より、パンと具材をわけて用意したまま、客の注文に合わせて作れる。何とかサンドを何十種類も作るより、5種類の具材だけで31通りのサンドイッチが作れるぞ」
「す、スゲー! 兄貴、それいいっすね!」
「干し肉も具材に使えるわね」
「基本は野菜っすね! 冒険者に不足しがちな……でも冒険者なら肉が欲しい! 肉系のダンジョンはミートピア……隣の領地っすか……うーん……!」
「行ってみるか、ミートピア」
「行くっす!」
「行きましょう」
そういう話になった。




