第12話 料理は積み重ねだ
そんなこんなで、結局たいした成果もないまま地上へ戻ってきた。
メタリッカー……俺のカネぇぇぇ……。
「まあとにかく、もち米と小豆は手に入った。
主要な材料はそれだけだ。あとは調味料だな。それも砂糖と塩だけでいい」
「材料4つだけ? そんな簡単に作れるんすか」
「まあな。味を無視して、形になりゃいいってのなら手順はシンプルだ。
要するに煮て蒸して丸めるだけだからな。
とはいえ、美味しく作るには時間がかかって面倒くせぇけど」
「時間?
兄貴ったら、あの時ふらっと出ていってすぐ戻ってきたのに、時間がかかる料理なのォん?」
サムソンめ、余計なところに興味を持ちやがる。
種明かしをすると、またサムソンがうるさそうだな……適当に誤魔化しちまおう。
「まあな。そこは、ほら……俺だから」
「「兄貴ィ!」」
チワワやめ……まあいいや。
サムソンに追いかけ回されるよりマシだ。
「つーわけで、今回は料理回だ」
「兄貴、メタいっす」
「さすが兄貴♪ 第四の壁を平然と破ってのけるわねェん。
そこに痺れる! 憧れるゥ!」
その「第四の壁を破る」……ってよォ~、「壁を破る」ってのは分かる……スゲーよくわかる。舞台と観客の間には「舞台上の世界を覗き見る」っていう約束事の壁があるからな……。
だが「第四」って部分はどういう事だああ~っ!? 第一から第三はどうしたっつーのよーッ!? ナメやがってこの言葉ァ超イラつくぜぇ~ッ! 順番スッ飛ばしてんじゃあねーッつーのよ! 第一の壁から順番に破ってきやがれってんだ! 横入りしてんじゃあねーっ! 嫌われるぜぇ、そういう横着はよオ~っ!
聞いたことねーだろ「第一の壁を破る」とかよぉ~っ! 舞台の「奥」と「左右」の壁のことだからなぁーっ! 取り払って全周囲から観客に見えるようにする事ァできても「破る」とは言わねェ! たとえ「奥」の方向にいる観客に向かって話しかけても、それは「第四の壁を破る」になるわけだからなァ~っ! 破ったとたんに急に名前が変わっちまうじゃあねーかッ! ナメやがって! ナメやがって! ナメやがって! チクショーッ!
「オラッ! どっかで厨房借りてこい! 人生は有限なんだ! キビキビ働け! うまいもん作れるようになった頃には歳食ってろくに働けねェなんて事になっちゃあ目も当てられねェぞ!」
「はいっす! 行ってくるっす!
……兄貴、いいこと言うときだけキレるの、なんでかなぁ~……?」
「呆れられるよりマシよぉん。期待してるから、期待を裏切られて怒るわけだもの。期待してない奴は、程度が低くても『お前ならそんな程度だよな』って、怒っても貰えないわよォん」
「た、たしかに……そうか。兄貴、俺に期待してくれてんのか……!」
「そりゃそうよォ。そうじゃなきゃ、『俺より美味いもの作れ』なんて条件つけないわよォ」
「俺、頑張るよ!」
全部聞こえてんだよバカヤローどもがァァァ!
なんてハズカシー奴らだ! 穴があったら入りたいとはよく言ったもんだぜ。あいつら埋めちまおう。
◇
「んじゃ、まずはもち米を洗い、たっぷりの水に6時間~一晩浸水させる。
ほら、やってみろ。実際に『やってみた』てのはメモを取るよりもしっかり覚えられるからな」
「うっす! 普通に米とぐ感じでいいんすかね?」
じゃぶじゃぶじゃぶ……。
疑問は持ちながらも、とりあえず「やる」ってのはバランの良い所だ。疑問があると立ち止まって、解決するまで動かねェ奴がいるが、そんなのは才能なし。凡人以下のクソだ。
ちなみに凡人は疑問を持たずに言われた通りにやる。そこんとこ行くと、疑問は持つし、すぐに動くんだから、バランは才能ありだな。
「アドバイスはしねぇ! 成功も失敗も、自分で体験して覚えろ。その方が身になるからな。
なにも今日これから『俺より美味いものを作ろう』ってんじゃねーんだ。練習なしで一発成功とかされたら、俺の立つ瀬がねェよ」
「てか、6時間から一晩って、どんだけェ~!? 兄貴、あの時はどうやってその時間を省略したのォん?」
「まあな……ほら、俺だから」
「いけずぅ!」
「よし、サムソン。お前に良いものをやろう。
本当はバランに食わせて経験つませようと思ったが、そんなに興味あるならお前にプレゼントしてやる。ほら、これ食ってみろ」
「いやん♪ 兄貴からのプレゼントなんて家宝だわぁ!」
いそいそと箱にしまおうとするサムソン。
「食えよ! とっといても腐るだけだわ!」
「あら? ナマモノ? どれどれ……あっ、おはぎ♪ いただきまー……なんか固い!? え? え? 兄貴、これ……」
「6時間待たずに作ったやつだ。形にゃァなってんだろ? 手間ァかけるほど美味くなんだよ、料理ってのは」
「な、なるほどねェん……」
「で、6時間待ってる間に、あんこを作ろう。
小豆を、まずは茹でこぼして渋きりだ。
ちなみに、渋きりしないで作ったのがコレな。サムソン、食え」
「い、いただきまー……渋いっ! なんか渋いっ! すごく微妙な味っ! 我慢すれば普通に食えるレベル! ゲロマズにならないところに兄貴の優しさと凄みを感じるわッ!」
「そのあとは煮るだけだが、アクが絶えず出てくるのでこまめに取り除くことが大切だ。そしてアク取りをサボったまま作ったのがコレな。サムソン、食え」
「う……うーん……エグみが……あ、兄貴……なんか、これ、さっきより……」
「料理は積み重ねだ。手間ァかけるほど美味くなるってことは、手間ァ省くほど不味くなるってことだ。昨日食わせたのは美味い方向に積み重ねたやつで、今食わせたのは不味い方向に積み重ねたやつってことさ」
「重ねてた!?」
「俺ァ重ねるのが得意技だからな」
「あ、兄貴……俺も食べてみていいっすか?」
「やめときなさい、バラン! あんた死ぬわよ!?」
「死ぬほど!?」
「死ぬほどじゃねーよ! そこまで不味くねーだろ! ……不味い! えっぐ! 渋っ! ぺっぺっ! なにこれ!?」
「おえっ!? なんすか、これ!? 兄貴、食べ物で遊んじゃダメっすよ!?」
「そうだな。ここは『スタッフが美味しくいただきました』ってテロップ流すとこだ。よし。サムソン、食え」
「ゲロマズなのを確かめた上で!? アタシにはできないことを平然と言ってのける! そこに痺れる! 憧れるゥ!」
頑張ってサムソンが食べました。




