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第10話 三者三様

 あたしローズ。

 昨日の獲物は残念だったわ。明らかに強い男。寄生するには最高の相手だったのに、まさか連れがあたしを知ってるなんて。せっかくミートピア伯爵領を出てベジタブルヘルズ伯爵領へ移ってきたのに、こうも早くバレたんじゃあ困っちゃうわね。

 でもまだ全員が知ってるわけじゃあないはず。新しい獲物を探して冒険者ギルドにいってみ――


「兄貴ィ♪」


「やめろサムソンてめえ! せめて外では控えろよ!?」


「サムソン、迷惑をかけるのはダメだよ。兄貴も『余った分は他の人を助けろ』『嫌がる仲間に無理やり食わせるぐらいなら、公園にでも行って無料配布してこい』って言ってたじゃないか。兄貴に恩返しを押し付けるのはダメだよ」


 うげ……な、何あれ……?

 ごつい男が女装して……無駄に顔だけ整ってるのがムカつくわね。

 あれって、昨日の「連れ」の方じゃない? 昨日は普通だったのに、何をどうしたら、たった1日でこんな劇的にビフォーからアフターになるわけ?


「っ……!?」


 じろっと見られた。

 サムソン、だっけ?

 あの目……嘘でしょ? 女の嫉妬じゃん。この女狐に自分の彼ピとられてたまるかって思ってるときの女の目つきじゃん。しかも男同士のパーティーがアタシを警戒してるときの目も兼ねてる……。

 だ、ダメだわ……普通の男女カップルなら引っ掻き回してやれるけど、オカマ相手じゃあ未知の領域すぎる……まるで2対1を強制されるような感覚。引っ掻き回すには、仲間と引き剥がして各個撃破が基本。なのに1人が2役じゃあ、どうしていいんだか……これは触らぬ神に近寄らずね。……触らぬクンシにタタリナシだっけ? クンシとかタタリナシて何だろ? 昔の偉い人の名前? ま、どうでもいいか。


「……また移動かァ」


 面倒だけど仕方ない。

 もう別の街へ行くしかないじゃん。

 あいつが目を光らせてるんじゃあ、やりにくくって仕方ない。



 ◇



 時間は少し遡る。

 苦労してサムソンをひとまず落ち着かせた俺は、バランへの差し入れを渡した。


「これ食って元気出せ」


「兄貴ィ……!

 料理人めざす俺に、こんな見たこともねェ料理を……ッ! なんて心遣いだ……!

 兄貴! 俺、これ食って勉強します!」


 ぱくっ。


「うッ――甘ァァァーい!

 な、なんすか、これ!? うンまッ!?

 この甘さは砂糖の……しかしレッドビーンズの風味を損なわない絶妙な加減! 中のライスも……これは、スティッキーライス? 柔らかい歯ごたえが、煮たレッドビーンズの歯ごたえと一体化して、調和しつつレッドビーンズの甘みと旨味を引き立てるゥ! あ、兄貴ィ! いったいどんなレシピなんすか!?」


「教えてほしいか?」


「教えてほしいっす!」


「いいだろう。

 しかし条件がある」


「なんすか!?」


「お前は料理人めざしてんだろーが、俺は別に料理人めざすわけじゃねェ。料理に関しちゃお前は俺より経験つんでんだ。だから、1年以内に俺より美味しく作ってみせろ」


「い、1年……!」


「見たこともねェ料理を1年以内に、てのは無茶だと思うかもしれねェが、レシピは教えるんだ。素人でも作るだけなら作れるようになるだろう。お前は料理人めざすんだ。今までの経験を参考にして、素人の俺より美味いもん作ってみせなきゃ……なぁ?」


「兄貴ィ! 俺……! 俺やってみせるよ! 兄貴より美味いの作ってみせる! そん時ァ、兄貴……一番に食ってくれよ!」


「そりゃあそうだろう。お前そこで俺を後回しにしやがったら、タダじゃ置かねェよ」


「兄貴ィ!」


「んじゃ、明日から材料の調達に行くか」


「どこに行くんすか?」


「豆ダンジョンの第3階層」


 答えたとたんに、バランは青い顔をしていたが。

 それでも何とか「行くっす」と答えたので、よしとした。



 ◇



 そして翌日。

 つまり今日。


「んじゃ、兄貴。俺はちょいとレッドビーンズ集めてくるんで、罠の準備お願いするっす!」


「あ? え?」


 バランは止める暇もなく駆け出していった。

 第1階層のヤングソイ相手にボコボコにされて死にかけた奴が、第3階層で囮役を?


「オイオイオイ……死ぬわあいつ」


 ゲームでいうところの釣り。

 魔物に襲われながら逃げ回って目的地まで誘導することで、敵が分散している場合に集めて範囲攻撃で一気に殲滅といった目的で使われる。

 効率よく倒そうという狙いはわかるが、それは倒しきれる事が前提となる上、釣り役が倒されないことも大前提。

 バランの実力では……。


「うぎゃーっ! 痛い痛い痛い!

 サムソン回復! 回復ぅ!」


「まったく……しょうがないわねぇ。毎ッ回そうやって調子に乗るんだから。アタシの苦労も考えなさいよね?」


 ぺかーっ、と白い光を浴びて、バランが回復する。回復速度が早い。サムソンの奴は、神官としては優秀なんだな。

 その間に、小豆の魔物は俺が仕掛けた罠にかかって死んだ。


「よし! じゃあ次行ってくる!」


「いやなんでェェェ!? アホかお前!? バカなの!? 死ぬの!?

 サムソン! アホ! お前! 止めろよ! 全力で止めろ、このバカを!」


「え?」


「ええ……ほんとね。兄貴の言う通りだわ」


「よし、サムソン。分かればいいんだ。

 バラン! てめえは『え?』じゃねーよ! お前は何がしてェんだ!? 自分で調達すりゃ安く済むからってダンジョンに潜ってんじゃねェのかよ!? 自分で倒せる範囲を超えてどうすんだ!」


「兄貴ならすぐ倒せるじゃないっすか」


「じゃあ何か? お前は俺を専属の調達係として雇うってのか? それならお前がダンジョンに潜る必要はねェだろ。第一、俺は料理人めざすわけじゃねェって言ったじゃねーか。行く道が違う以上、いつか別れる日が来るんだよ! 俺に頼った戦い方を選ぶんじゃあねェ! お前の夢は、お前が自分で叶えるんだよ!」


「兄貴ィ!」


 チワワやめろォ!

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