菜摘未の思惑6
何を聞いているんだ。呼び出しておいて。ひょっとして頭の中はごちゃ混ぜになっていれば話が続かない。
「あたしはあたし、あなたはあなた、小谷さんは小谷さんだよね。それぞれに利害関係があったとしても誰も心は曲げられないわよね。お互い心に思うものがゴールインするまでは」
急に何を言い出すんだ彼女は。
「それがどうかしたんですか」
「それぞれの思いは別々ってことよ」
「それは景品付き限定販売のことです、か」
菜摘未は暫く気持ちを中空に浮かせて、焦点の定まらない瞳を漂わせた。此の人はそれなりの誇りを保ったまま、自分の人生を駆け抜けられる人なのか? そう想えば嫌でも、境田は此の人の置かれている立場に眼を向けられた。
此の人は十和瀬酒造の娘さんだ。造ったお酒を売るのが生業のはずだ。尚更それぞれの心の内なんて言ってる場合かよ。俺もそうだがみんなの思いがまだどこに向かっているのか定まってない。だからしっかりしてよ。
「人生は競争だけが全てじゃない。それに依って付けられた順位は勲章でも何でもない。ただあなたは今、此の位置に居ますよと云う自己満足に過ぎない。それに相応しい人生を見付けなければ意味がないでしょう」
「随分な余裕だこと。それってあなた、あたしを見下しているのね」
ーー今まで見下した事が仮にあったとしても、あなたに追い抜かれた気分を味わったことは一度もなかったわ。それがあたしのプライドだったのに、今さらあたしの人生を何だったと言うの。
ーー頂点に立つちゅうのは、それまでの追う立場から追われる立場になる。これは今よりプレッシャーが倍増する。守る人が出来てしまった者と、我武者羅になれる者との違いは精神的に大きい。
「でも愛は別よ。その時から追随者を追い払えば、もう後ろを見ずに愛する人だけを見れば良いんですもの」
「だが今度は『死が二人を分かち合うまで』このプレッシャーに堪えるだけの愛を貫く自信があなたに在りますか」
振れ幅がない僕には、在るとハッキリ言い切れるけれど……。




