愛人の店3
香奈子は母親に似て、面長で長くの伸ばした髪を、仕事場では後ろに引っ詰めていた。目元はキリリと引き締まって古風に見えるが、笑うとほんのりと三日月になるが、その瞳は引き締まった目元と同様に一種の光彩を放っていた。小谷に言わすとそれが堪らなく心を繋ぎ止められてしまう。人を喰ったような顔をする君枝と違って、娘の香奈子は深い洞察力を持って、相手を見透かすような瞳に、多くのプレイボーイと称する輩をたじろがせた。小谷にはその眼差しが、知性を覗き視するように突っかかって来る。
「此の前、渡した本読んでくれたの」
「読んだ」
「どうだったの」
「あんな激しい恋にはついていけないよ」
「でもあれが本当の恋よ」
そうか、凄い恋を知ってるんだ。そんな香奈子のあの絵筆のタッチを見ていると、あんな小粋な着物もきっと着こなしそうだ。
「何であの本を推薦したんだ」
「暫く来ないからよ」
全く会話になってないが、不思議と意思疎通は図られていた。彼女のあの瞳と同様に分かり合おうとする姿勢と、伝えたい努力に開きがあっても、あの気分で齎す独特の雰囲気がそうさせる。そうして気が合う処から恋の駆け引きが始まる。それに何処まで付いていけるかどうかが此の恋の分かれ目なのだ。
な〜に焦ることはない、十和瀬から彼の腹違いの妹を紹介されてからまだ日は浅い。切っ掛けは菜摘未の気性の激しさに振り回されたからだ。それまで菜摘未は単なる十和瀬の妹だったが、少し前に男を振ってから急に小谷に近付いてきたのだ。その逃げ場になったのが香奈子だ。本心は十和瀬幸弘同様に未だに掴み切れていない。だが菜摘未の場合は惰性だが、香奈子の場合はこっちの人生が掛かって来る。次の言葉を手探りする間に下から十和瀬が「そろそろ行くぞ」と声が掛かった。思案する気持ちにけじめを告げるように「兄が呼んでるわよ」と早く行きなさいと言わんばかりに急かされてしまったが「帰りにはまた寄ってね」と言われると足取りも軽く下へ降りた。
「あなたたちどうなの」
下で君枝さんに聞かれたが曖昧に返事をした。これには十和瀬も少し眉を寄せたが二人は揃って店を出た。




