境田が語る菜摘未1
子供の頃から菜摘未の負けず嫌いな性格は、大人になって鳴りを潜めている。聞いた境田には、思い当たるものがなかった。
「まあ、恋人同士で付き合っていれば、そんなボロをあの女が出す訳ないだろう」
なるほど厳しく自制しているって謂うのか。それは俺のためじゃないだろうと境田はふと思った。
「子供の頃の菜摘未さんはどうだったんですか」
「矢っ張り子供だ、そんなもん意識する訳ないだろう」
「じゃあいつから自覚して自制したんですか」
「十和瀬が、ああ、菜摘未に二人いる下のお兄さんだ」
「それぐらい知ってますよ」
「そうか、その十和瀬が香奈子さんを始めて俺に紹介した。それからだろう」
「それまではどうだったんですか?」
境田は熱の籠もった言葉を寄越して来た。本気で菜摘未に惚れている。
決定的な愛を告白されなければ人は動かない。先ずはその息苦しいまでの環境で、信じてもがき続ける原動力が愛であれば、それはもう不可抗力で防ぎようはない。希望の光を闇に閉ざして全ての意欲をそり落としてなにが残る。希望の光は闇に沈んだ菜摘未の心にいつかは届くのか。もしかして彼女は、此の気怠い世界を求めて、そこへ引きずり込もうとしているのなら、悲惨な未来しかこの男には待ち受けていない。
「それまでは向こうが一方的に寄り掛かってきたんだ」
菜摘未はそんな女だ、気をつけろと小谷は忠告した。
「一方的に向こうから来るなんて……」
到底信じられないと言う顔をした。それほど彼は、菜摘未に当てにされてないのか。
「嘘じゃない。菜摘未はしょっちゅう俺をデートに誘ってきたんだ」
境田には絶対にあり得ない光景で、小谷にダメ押しされたようなものだった。




