菜摘未の呼び出し6
「本当に十和瀬酒造の売り上げを伸ばすつもりなのですか?」
「だってあたしの会社だから当然でしょう」
「でも今までそうしてこなかったのはどうして」
「まだ大学を出て此処でやっていけるか自信がなかったからよ」
嘘だ! 此の人はそんな誰かのために尽くそうなんて微塵もなかったのに。これから先もどこまで続けられるか、持久走のフルマラソンなんて、そんな思いつきで始められるもんじゃない。仕事にかまけて、何かをすり替えてないだろうか。陽はまだ昇ったばかりだから、暫く様子を見たい。本当にこれで彼女の性格が変えられるなら付き合えるが。
「なぜ気が変わったの?」
これには猛然と、変わってない。今までの私のままだと抗議された。
変わってない、とすれば。彼女の揺れ動く激しい性格の原動力はどこにあるか。負けん気だけでは説明が成り立たない。在るとすれば、此の半年で悟りの境地を開いたとしか考えようがない。だが菩薩にはまだ成りきれない。そこをどう宥めるか。それが境田の、彼女に対する愛だと、受け止めてくれるまで、我慢強く堪えるしかなかった。
「処でどうしてそんな思い付きをしょうと言う気になったのですか?」
「失礼ね、あたしがその場限りの思いつきだけで動く女だと思われたくないわッ」
ごもっともだ。それは境田が常々菜摘未に云い続けていた悲願でもある。が付き合いを再開したい彼には拒めない立場でもある。
「じゃあその新しい計画をどこから始めればいいんですか?」
「そうね、先ずは外堀を埋める意味で得意先の小谷さんに当たればいいでしょう」
さっき会ったばかりの人に、直に頼めと云うのか。売る方も難しいが、元彼の要望なら小谷はもっと難しいだろう。
「雇われの彼が、そんな冒険に気乗りしなければ販路は閉ざされますよ」
暗にこれは菜摘未さんの仕事の受け持ち範囲だと云いたい。察した菜摘未は「あの人とは付き合いが長くて余計な感情が入るから、今日会ったばかりのあなたが適任です」と言い切られてしまった。どう云う長い付き合いかそこに説明がなかった。




