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菜摘未の呼び出し5

「会長であるあなたのお父さんはどうなんです。あの切り子細工を百個作るにはかなりのお金が掛かりますよ。此の酒を一体どれだけ売ればその費用を回収出来るんですか」

「父は乗ると思う、でも兄の功治は反対する」

 兄は石橋を叩いても渡らない。だから正反対の千夏さんがホローしている。

「千夏さんは知ってるんですか?」

「今はあなた以外は誰も知らない」

「そんな無茶な相談をどうして最初に僕の所へ持って来るんですか、それに販売をするのなら取引先の人にも相談しないと」

「その人ならさっきまであなたが会っていたでしょう」

「ハア? あの小谷さんですか、でもあの人は僕のぐい呑みには無関心だった」

「あの人はあたしの姉に夢中ですから、あの切り子細工が目に留まっても言い出さないわよ」

「そんな担当者を相手にして、大々的に売り出すのはどうなんでしょう」

「その担当者をこれから引っ張り出す為の方策を考えて欲しいのよ」

 何のために。会長はさて置き。先ずは社長であるお兄さんを説得するのが筋だろう。

 お兄さんは千夏さんさえ乗り気なら問題ない。だから小谷さんをあなたは何とかして欲しい。今日、此の人が短時間に珍しく阿修羅から菩薩に変わった原因はそこにあるのか。この人に尽くせば永遠に光耀く菩薩像が夢見られるのか。そんな幻想も過去に何度も思い描いた。

「その話、面白いですから少し伺いましょう」

 としか今は言いようがない。

 あの頃は二人が此の店で語り合ったのはいつもこんな仕事でなく。もっと希望に満ちたそう遠くない未来の話だ。それが実現出来ると思わせてくれるから、此の人の気まぐれな感情の行き違いにもこらえて我慢した。だが今日は、今までまで聞いたことのない話だ。それも二人の将来には何も描けない店の売り上げを伸ばす話だ。

「それで菜摘未さんの気が晴れるの」

「あたしが落ち込んでいるように見えるの」

 菜摘未は急に何の話かといぶかしむ。いつもならくだらんことを言うと怒鳴り返すのに、こんな彼女は初めてだ。


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