菜摘未の呼び出し4
こうなると冷めた珈琲も悪くない。見れば菜摘未のカップも半分減っている。以前から彼女はこんなペースだったのかと思い巡らす。とにかくあの頃の彼女に復活したのだ。当然今日はこれから何処かへ行くんだろう。高まる気持ちを抑えて冷静沈着を装って手持ち無沙汰に珈琲を飲んだ。
「あの切り子細工の入ったガラスのぐい呑みはね」
絶品の薩摩焼酎に付いていた物なの。それを今度は似たものをうちが長年醸造してきた秘伝のお酒に付けて大々的にキャンペーンをする。それと急に俺を呼び出した接点はどこなんだ。そんなもの有るわけないと云う境田の結論は速かった。
「あのぐい呑みはもう作っているの?」
それでも合わさないとまずい。
「まだ、でも試作品はある」
「今朝、君が追っかけてきて渡したあれか?」
あれは値が張りそうだ。採算は取れるのか。それでもあのぐい呑であの酒を呑めば良さが解る。後は口づてで拡がれば採算が取れる。景品は限定で百個付けて大々的にキャンペーンするそうだ。
「それって、会社は知ってるの」
「今は誰も知らない」
呆れて話にならないが、ここは、興味ありげに聞かないと、また何をやらかすか知れたもんじゃない。これもその一環かも知れない。少なくとも半年前までは、あの酒造会社にそんな無謀な計画は存在していないし、これからもあるとは思えない。だが彼女の性格を考えると「考え直せ」なんてとても言い出す勇気はさらさら湧いて来ない。
「それでその計画は何処まで進んでるんですか」
「今から始めます」
これには絶句した。じゃあ帰りかけた僕を呼び止めたのは一体なんなの。




