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菜摘未の呼び出し2

「香奈子さんのお母さんは此の近くでスナックをやっているのよ」

 スナックと聞いて、先ほど会った清楚な印象に境田は困惑した。

「じゃあ彼女も店に出てるのか」

「そうね、出ないときもある」

「出ないときは何をやってるの」

「お姉さんは手描き友禅が主で、スナックはお母さんのお手伝いていどだから」

 香奈子が母親の手伝いと知って境田は少しは落ち着いた。

 此処までの菜摘未の話しぶりは半年前までは考えられなかった。これならもっと早く来ればと思ったが、矢張り無理だろう。それほど菜摘未の調子の良し悪しが掴めないのだ。厳密には今日もそうだ。

 今日の彼女は阿修羅から弥勒菩薩に。此の変化は、世間一般のごく普通の人が行う基準値を遥かに超えて、読み取るのは至難の業だ。即ち予測不可能な彼女の動きにどう対応するかに掛かってくる。

 菜摘未の負けず嫌いは、子供の頃はその対象範囲は狭いが、年相応に応じて対象範囲が家族から身内になった。今や恋人にまで及んで、とばっちりを境田独りが受け止めていた。

「なぜ急にメールしてまで呼んだか解る?」

 菜摘未は境田が落ち着くと、注文を取り次ぐ前に、真っ先に訊ねた。呼び出した本人の気持ちが解らないのに尋ねる。それはこちらが聞くのが筋だろう。答えられるはずのない質問に戸惑う彼に、楽しげな眼差しを浴びせた。

「どうなの」

「出会った頃の菜摘未さんなら解ったけれど、今日の菜摘未さんは、いや、半年前から何も解らなくなっているんだけれど……」

 敢えて今、聞かれても、三年近い二人の恋をどう想うよりも、今の君を判断するのは難しかった。

「しいて言えば、久し振りに会ってそんな質問をする意味が解らない」

 どんな理由にせよ半年前に別れた菜摘未が、元彼を呼び出した理由を聞くとすれば、それは彼女が会いたいからだ。世間一般では聞かずとも解る答えだが。朝はけんもほろろに追い返された後に、呼び出した理由を聞くか。と誰もが想う。境田もその一人で返事に苦慮した。

「本当の恋って、その時々の相手の雰囲気で気持ちがシーソーのように傾くのが普通でしょう」

 普通じゃない ! と完全否定したいが、反響が怖くて言い出せない。


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