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愛人の店2

「おや、小谷さんもご一緒なのかい」

 ちょっと小首を傾げて言われると悪い気はしない

「そうでないと俺が昼間から此処へ来るわけないだろう」

 目ざとく小谷を捉えた視線に十和瀬はムッとなった。

「じゃあこれから実家に行くから寄ったのかい」

「その前にちょっと実家の様子を聞こうと思ってな」

 と言いながら十和瀬は奥のカウンター席に座った。君枝さんと十和瀬がカウンターを挟んで煙草を吹かし出した。

「小谷、お前は二階の香奈子に用があるんだろう」

 小谷は君枝さんと目配せして二階へ上がった。二階へは店からも上がれるが、彼女の為に裏口からも上がれるが、まだ小谷は上がったことがない。

 十和瀬家の三兄弟とは腹違いになる香奈子さんはスナックの二階で、母親は一階奥に住んでいた。香奈子は奥山工房と謂う友禅会社から素描き友禅の仕事を廻して貰っていた。

 二階は二部屋の内、一つを仕事場として一畳半ほどの横長の仕切りに、天井から四隅に柱を取り付けて、左右の柱の間に取り付けた駒に、長い反物を上から下へとベルトコンベアのように交互に通して張り巡らせる。一番下に座って手送りしながら、白生地に奥山工房から依頼を受けた柄を描いていた。

 香奈子は上がって来た小谷を軽く会釈をしても、筆を止める事なく続けていた。小谷も心得たもので丁度一つの柄を描いている最中だと判り、彼は邪魔をしないように反物を挟んで、そっと向かい側に座って暫く眺めていた。今彼女が描いているのは付け下げ着物の上前で、着物にすれば肩の柄から流れるように小枝が着物の上前になる当たりで大きな大輪の花が咲き、周りには緑の葉が重なるように広がっている。おそらく着物に縫い上がれば膝当たりに此の花柄が来る。ちょっと粋に膝を折れば丁度折った膝頭に此の大輪の花が咲き誇ったように見える。そんな香奈子の着物姿を想像していた。やがて上前を描き終えた香奈子は絵筆を置いた。

「暫く来なかったわねぇ」


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