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酒蔵が続く散歩道1

 厳密に考えれば二人の女を均等に愛するのは道徳に反しないか。

「背徳行為じゃないのかなあ」

「お父さんは浮気は恋で愛じゃあないと変な理屈を付けて誤魔化しているわよ」

 小谷は十和瀬との付き合いは長い。同じように妹である菜摘未とも見知ったが、小谷が親しくしたのは最近だ。厳密にはそれまでの菜摘未はまだ子供で、一皮剥けたのは大学生になってからだ。

「親しい付き合いってどんな関係だったの?」

 問うて来た香奈子の瞳は、いつもより陰りながら揺れる眼差しを初めて見た。ここへ来てから見せた不安げな瞳が、小谷には余程気になった。ひょうきんな小谷の表情から、彼の心の変化を読み取ったのか散歩に誘われた。

 作業場でじっと座って集中していても、筆先を一旦止めると、倦怠感が湧き上り集中力が途切れる。こんな時は気分転換に散歩に出る。全身の血行を活発にして手先に注げば、また絵筆が勝手に走って仕事がはかどる。

 歩くのはいつも大きな酒蔵が並び立つ、疎水(運河)沿いの柳の木がそよぐあたりだ。民家の軒先を眺めながら、冬を遠ざける優しい日差しの中を、疎水べりへ足を運んだ。

「さっきの話だけど小谷さんもあたしと同じで菜摘未ちゃんを小学生の頃から見知っているのに余り喋った事はなかったのね」

 香奈子には妹だが小谷にはまだ子供で込み入った話はしない。たまたま十和瀬家に寄った時に顔を会わす程度で、会話も挨拶程度だ。それに引き替え何時間でも『利き酒』が開くまで二階で、香奈子に勉強を見てもらってる菜摘未とは、接した年月は同じでも、小谷とはだいぶ違う。

「菜摘未ちゃんは中学生頃までは遊びに来ていたけど、あたしが大学生になった頃には友達が出来て家には余り来なくなったのよね」

 菜摘未が大学生頃には香奈子は今の素描き友禅の仕事を始めていた。その頃にはもうほとんど店にも顔を出さなくなった。菜摘未は社会人になってからは月に数回、何かモヤモヤしているときに呑みに来る程度だ。


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