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愛人の店1

 伏見桃山駅近くには御香宮神社や寺田屋旅館の名所もあるが、改札を抜けると、目の前は大手筋通というアーケードの在る、賑やかな商店街になっている。十和瀬の家はその先だ。

「どっちを先に行く」

「実家は忙しいのか」

「酒造りはこれからで、仕込みもまだ先で杜氏の山西さんと兄貴が方針を聞くぐらいだ。先ずは君枝さんの店に一度寄ってもいいだろう。その方が小谷には帰りにまた気軽に寄れるだろう」

「そうだなあ」

 話が決まると二人は賑やかな商店街を横目にして二筋目の脇道に入った。人通りは少なくなるが込み入った横の通りにも、商店街ほどでは無いが店はある。流石は酒所の伏見だけ在って殆どの店には、蔵元の地酒のポスターが張り出してある。その中に一軒の居酒屋風のスナック『利き酒』があった。勿論洋酒でなく地元蔵出しの酒が全て揃っている店だ。

 流石に昼間は閉まっているのを無理に呼び出した。

「用なら裏へ回ってくれ」

 中から甲高い中年の女性の声がした。

「俺だよ幸弘だよ」

「何だ幸弘か、ちょっと待っとくれ」

 ガラス戸の向こう側のカーテンが開かれ、君枝おばさんはしゃがみ込んで下の鍵を外してドアを押し開けた。店を開けているときは着物だが、今は白に花柄をあしらったワンピースでは華奢な体付きが余計に小柄に見えて、色白の頬から伸ばした髪が肩に掛かると面長に見えた。いつもながら此のおばさんは流石に十和瀬酒造の二代目の御曹司が惚れ込んだだけの色気を、五十の坂を越えても漂わせていた。


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