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君枝の店6

 土曜日でまだ電車は在るが近くの駅は、普通電車しか停まらず、かなりの客が帰り店は空いて来た。十和瀬夫婦も帰ってしまった。お陰でカウンター席には、小谷と香奈子が隣りどおしに座った。君枝はカウンターの向こう端で、まだ独り呑んでいる常連客と煙草を吹かしながら喋っていた。

「こう寒いとこの前話していたおでんなんて置きたいわねぇ」

「でも君枝さん、面倒くさがるでしょう」

「あたしが何とかするから用意できないかしら」

「それじゃ表も引き戸にして暖簾を下げて赤提灯をぶら下げないと格好が付かないでしょう」

「表の店のスタンド看板を見て、ドアを押せばおでんなんて面白くないかしら」

 香奈子のこの発想に君枝さんが何処まで付いて行けるか。これには小谷も無理だろうと助言した。客足が途絶え、居残った常連客とお互いに愚痴を言い合う母を見ると此の話はいつも流れてしまう。

「観光客と常連客でお客さんの棲み分けが出来ているから、お母さんは今の喫茶アンドスナックのままで良いみたい」

 それより今日気になったのは、希実世さんが喋った菜摘未ちゃんの話だ。

「あたしにもそうだけれど、あの子最近は仏頂面して来るのよね」

 小谷には店にほぼ昼間は毎日挨拶がてらに顔を出しているが、夜は週に二回、たまに三回の時があるぐらいだ。菜摘未が呑みに来るのは週一回来るか来ないかだ。それも表のドア越しに父が居ないのを確かめて、顔を会わさないようにしている。

「それじゃあ会長が遅く来ればどうするんだろう」

「それは絶対に無いわよ。だって二人を均等に愛してるから夕方喫茶からスナックに代わる頃に来て八時には帰るんですもの」

「菜摘未が来るとすれば八時過ぎか」

「菜摘未ちゃんはちゃんと働いてるの?」

「一応は十和瀬酒造の社員何だけれど、昼間立ち寄っても余り見かけないんだ。千夏さんの話だと以前は居たけれど俺が担当に代わってから昼間になると席を外しているみたい」

 小谷との成り行きを知っているだけに、香奈子も気にしているようだ。


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