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君枝の店5

「お酒はどう、順調に熟成されているの ?」

「大西さんに言わすと今年も良い出来栄えで楽しみなそうだ」

「それは良かったわね」

「新酒はいつ出来るんだ」と二人の話に小谷が割り込んだ。

「年が明けてからだ。まあ、これからが正念場だ」

 誰にでも十和瀬が醸造しているような錯覚を抱かせる言い方で、全くもって人騒がせな奴だ。

「菜摘未ちゃんはどうしてるの」

「ああ彼奴あいつか、別に部屋にずっと居ると想ってたら事務所で千夏と喋っているところに出くわして行き先を訊かれた」

 此処だと知ると、兄貴一人であの店に行くから不思議がると、妻と待ち合わせだと言えば笑って見送られた。

「誘えばよかったのに、さっきまで話題にしていのに」

 香奈子さんが十和瀬に酒を出しながら、つれない人ねと愛想笑いを浮かべている。

彼奴あいつは、おやじと俺とは一緒に呑むわけないわな」

「アラ、どうして仲は悪くないんでしょう」と希実世が聞いた。

「悪くはないが良くもないなァ。まだ兄貴の功治の方が歳が離れていて却って酒の話し相手にはいいが、兄貴は酒屋の息子のくせに下戸だからなァ」

「そうなの? 奥さんはお酒好きなのによくそれで一緒に成ったものね」

 と希実世は不思議そうだが、その辺があの夫婦の良いとこらしい。お互いに飲んべえなら二人とも酔い潰れて処置なしだ。

「成るほどそれで釣り合いが取れてるのか」

 小谷と希実世は揃って納得した。そこへ君枝さんも今年の新酒の出来具合を十和瀬に訊いて来た。今の夫との関係もそれに置き替えれば少しは分かると、希実世の耳元で小谷は囁いた。君枝と話す夫の様子は悪くないと見て、そう言われてみればそうね、と希実世は納得したようだ。


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