君枝の店4
香奈子さんの言う、少しましなのは中学生頃までの菜摘未だ。これは小谷もそう思っていた。彼も高校時代に十和瀬と知り合うと同時にまだ小学生だった菜摘未にも会っている。菜摘未は自宅では小谷と、君枝の店では香奈子と会っていた時は、菜摘未も此の二人が懇意になるとは思ってなかった。まして二人を兄が引き合わすなんて、金輪際有り得ないと想っていただけに、口には出さないが気分を害している。どうしてそう謂う事をするんだと十和瀬に小谷は問い詰めたが、お前と妹の為にやった。むろんお前にとっては嫌なはずはないだろう、と居直られると当たっているだけに何も言えない。反論しても勿体ぶるな菜摘未のようにもっと素直に生きろと云うだろう。ここまで気を回せる奴が、どうして希実世さんには後手ばかりで、揚げ句には俺に援助を求めるのか。傍にはまったく不可解に映る十和瀬がやっと来た。
カウンター席でおしぼりで手を拭きながら、盛んに希実世に遅れた詫びを何度も繰り返している。どうも小谷にはそれが滑稽に映る。
十和瀬が来ると、君枝と香奈子がスーと入れ替わった。これはいつものことだ。君枝さんは鴈治郎さんと千夏さんには本音が出る。それ以外の十和瀬家の人達とは、表面上は愛想良く振る舞っても、何処かぎこちなく距離を取っている。最も千夏さんは夜は家事に追われて殆ど此の店には顔を見せない。一度鴈治郎さんと来たそうだが、千夏さんはかなりの酒豪だ。
「酒の仕込み具合で遅れたのだから、そんなにペコペコすることはないやろう」
小谷に云われなくとも気付いているが、スッカリ習慣付いてしまったらしい。希実世もそれに付いては何も言わないところを見ると、暗黙の了解でもないが何処となく十和瀬が歯痒い。




