君枝の店2
「試飲してみてどうですか?」
「小谷さん、こんな強い酒呑まはったんですか?」
「ええ、十和瀬酒造の会長から呑ませてもらいました」
「エッ! あのお義父さんが」
希実世さんの驚きは尋常ではない。
「如何したんですか」
「だってそうでしょう。たまにしか会いませんが、あのお義父さんは毎回、何か気むずかしそうなんですもの」
「それは鴈治郎さんの素面の時だけですよ」
実家には何か縁起ものでもあった時に、主人と一緒に挨拶に顔を見せる程度で、酒でほろ酔い気分に成っているのは結婚披露宴の時だけだったそうだ。
「それじゃあ無理もないですね」
仕込みのもろみが活発化して温度管理に追われて、それで遅くなると十和瀬がメールを寄越した。香奈子さんの話だと今は大変な時期らしい。それでも次男の幸弘は余り関係なく、ほとんど杜氏の大西さんがやっているはずだと首を傾げた。
「復職してきっとあの人張り切っているのよ」
希美世さんにすれば、せっかく千夏さんの取りなし戻れば、頑張ってもらわないと困る。先日はもろみの仕込みタンクの前で、データ管理について十和瀬は考え込んでいた。
土曜の夜は早めにテーブル席も賑わって、君枝と香奈子は「ごめんなさいね」とカウンター席とテーブル席を行き来し始めた。こうなると希実世さんと二人は、カウンターに取り残された。これ幸いにと、此の前は十和瀬が居て聞き漏らした、菜摘未に関するひみつを小谷は訊ねた。
「そうねー、あの時は主人が居たから言いそびれたけれど……」
希実世さんは菜摘未の執念深さには呆れているが、十和瀬が香奈子を紹介するとアッサリと引き下がっている。しかしこれも二人が仲を深めると、菜摘未はどう動くか解ったもんじゃないと注意を喚起した。




