十和瀬の憂い5
「だから具体的に云えないからそう言ってるんだ」
いつもそうだ、此の男はハッキリしたことは言わない。そう謂う癖なのか、それとも元々ぼんやりして何も言えないのか。一体希実世さんになんて言ってプロポーズしたのか気になる。案外これから訪ねる彼女の顔に、答えが描いてあるのだろうか。と馬鹿馬鹿しい思いに耽ってしまった。
十和瀬はサッサと歩いて橋の袂に在る地下階段を下りて行った。地下は京阪電車のホームへ降りる通路になっている。彼奴はそこから先にある、中央改札をそのまま通り抜けてしまった。定期券を持たない小谷は、切符を買って慌ててあとを追って、ホームへ降りる階段で追いついた。
「なあー、十和瀬、お前の披露宴は紋付き袴と彼女は打ち掛け姿だったなあ」
「うん、まあなあー、それがどうしたんだ」
「中央ひな壇の高砂席に居る新郎新婦しか見てないからなあ、普段の顔はどうなんだ」
「変わるわけないだろう」
「あの特別な花嫁化粧から半値八掛け二割引きとか言う事は無いか」
これには珍しく希実世さんが貶されているのに十和瀬は笑った。どうなってるんだ此の男は。
「女房は商品じゃない、ましてまだ新婚だ」
商品ならまだお試し期間てことか。
「ならもっと悦んでいてもいいだろう」
「まあなあ」
丁度言葉が詰まったタイミングで、列車がホームに滑り込んできた。
「さっきの話だが、希実世さんは慎ましくあのひな壇に座っていたぞ」
列車の席に着くなり続きを訊ねる。それが何か煩わしそうに頷くだけだ。
「俺が言いたいのは、あの披露宴の雰囲気から今のお前が想像できないんだ」
仲人の話では彼女とは、大学の文化祭で知り合ってから二人は意気投合したそうだが、それは作り話だろう。その前のお膳立てはお前のおやじと取り引き会社の営業関係の娘さんだそうだ。向こうはかなり無理して私立のミッション系の大学へ入れたが、あそこは花嫁修業に慎ましく育てたいと入れたが、要は本人の自覚の問題だった。




