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十和瀬の憂い4

 十和瀬の新しいマンショは京阪電車出町柳駅近くに在る。以前の小谷の住まいは伏見でも近鉄沿線だった。大学も近くの龍谷大学で小谷と十和瀬は、今でも遠からず近からずで傍から見ると不思議な交友を深めていた。

 大学を出ると小谷は実家を出て狭いながらも自由に暮らせるアパートに移った。小谷の今の住まいは、天王町から奥に入った鹿ヶ谷通と白川通を結ぶ間にある、車線のない細い道路に面した二階建ての木造アパートだ。

 実家を出たのは両親は自由奔放に育てながら、細かい仕来りに飽き飽きしただけだ。自室と屋外では何をしても言われないが、それ以外の屋内では事細かく丁寧に扱うように云われた。年の離れた弟は実に上手く両親の目を盗んで、要領よく此の仕来りを潜り抜けて今も実家に居る。小谷はそれが鬱陶うっとうしかったが、弟はそうでもないらしい。大学を出て社会人になってから殆ど伏見の実家には帰っていない。地理的な関係で十和瀬と会うときは中間地点ではないが、交通の便利な四条河原町にしていた。小谷は白川通に出てバスで来る。十和瀬は京阪電車で、出町柳駅から乗ると四条京阪で降りて四条大橋を渡りながら、いつも橋の上から鴨川を眺める。

 この日もまた小谷と喫茶店で話し込んでから、今日は珍しく十和瀬の新居へ案内してもらう事になった。さっそく喫茶店を出ると四条大橋を渡った。先ほどまでユリカモメにパンくずを投げている女は、パンくずがなくなっても寄ってくるユリカモメとたわむれていた。さっきは川向こうだったが、橋の近くから見ると穏やかな顔をした、歳のいったおばさんだった。確かに十和瀬が言うように、母親にも君枝にも全く違う雰囲気を漂わせていた。

「どうだ、こうして近くであのおばさんを眺めているとお袋でもない君枝でもない何処にでも居そうな人に見えるが、何か特別な雰囲気を感じないか」

「特別な雰囲気って?」

 橋の欄干から河川敷のおばさんを眺めた。


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