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十和瀬の憂い2

 高校時代から十和瀬の浮いた話は聞かない。そんながさつな男でも交際が続いているのは、とにかく虐められそうになると、彼奴あいつは必ず小谷を庇ってくれた。礼を言うとお前に落ち度がない、それしか言わないのが不思議だった。このように彼奴あいつと一緒に居る理由は、その理由以上の親近感に包まれていれば、他に理由がなくても付き合いは十数年も続いた。

「愛し方が違っていても受け止める相手が幸せだと感じれば、それで平等の愛になるだろう」

 十和瀬は暫く黙って窓から見える鴨川に眼をやりながら珈琲を飲むと黙って頷いた。母親と君枝とは性格が全く違うのに、全く同じ愛を注いでいれば、それは愛でなく愛を真似たものだ。感動が違う者に同じ贈り物をしても意味が無い。

「そうだなあ、お前のお母さんは千夏さんから聞いた話では煙草も吸わないし酒も余り呑まないそうだ。それに引き替え君枝さんの粋な呑みっぷりで店が忙しくなると、くわえ煙草で小皿を洗っている。あの人のああ言う姿が鴈治郎さんは気に入って、ちびりちびりと酒を呑みながら、カウンター越しに見ていた。あれが奥さんなら顔をひそめてそっぽを向くだろう」

「お前がそんなところを見てもしゃないやろう、肝心の香奈子はどうしたんや」

「そこやけど、何でわざわざ普段着ない着物で、あの日は店を手伝ってたんや」

「嗚呼その話しか、帰ってからおやじが菜摘未に話すとさっそく香奈子に電話で聞いてた」

 ウッ、と小谷は身を乗り出して何て言ったか催促してきた。それを見て十和瀬はにんまりして、焦るとな言いたげにまた珈琲を一口飲んだ。

「お前が来ると予感して着たそうだ。あの日、何か言ったんか」

「いいや特に何も言ってない」

「嘘吐けッ、それで香奈子が着るはずがない」


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