十和瀬の憂い1
十和瀬の仕事を引き継いで、休日に近況報告に呼び出された。酒造会社は表の店は開けているが、奥の工場は酒の仕込み以外は日曜が休みだ。表の店は無休でパートのおばさんが休む時は、大抵は千夏さんが店番をしている。
十和瀬とは高校以来、彼奴の家には余り行ったことがない。当然父親の鴈治郎は昼間はいつも家に居なくて会ってない。学生の小谷が偶に見かけても、鴈治郎は仕事か恋に追われて憶えていない。十和瀬が仕事を代わるときに、後釜に小谷を報せただけで、まだ鴈治郎は知らなかった。君枝の店で初めて鴈治郎は小谷に会った。
待ち合わせ場所の四条河原町で会うなり十和瀬から「おやじに会ったんだなあ」と挨拶代わりに言われ、四条大橋まで歩いた。
「俺に言わすと、学生のお前が家に来ても全く見向きもしなかったのは、おやじがそれだけお袋と君枝にうつつを抜かしていたんだ」
二人は四条大橋の近くの喫茶店に入って、十和瀬は熱い珈琲を飲みながら言った。
「十和瀬、お父さんはうつつを抜かすなんてそんなもんじゃないぞ、きっと平等に愛していたんだ」
聞いた十和瀬は驚いている。十和瀬は君枝の店には余り寄り付かない。結婚してからは希実世と殆ど一緒に店に顔を出しているのは、おやじの付けで金が掛からないから気晴らしで行ってるだけだ。だが菜摘未は香奈子とたわいもないお喋りが目的でやって来る。鴈治郎は此の前のように、君枝の小粋な姿を酒の肴に呑みに来る。長男の功治と千夏は殆ど来たことが無い。功治は呑まないが社交的な千夏は、行きたくても行けないのが現状だ。鴈治郎の妻は店の前は避けて、わざわざ遠回りして店を金輪際避けとおしていた。このような状態で十和瀬家と君枝の店が存在していた。
「平等に二人の女を愛せるわけないだろう」
言った十和瀬は、この言葉で解るように希実世一人に手こずっていた。それから察すると案外に愛の本質を見誤っている。




