鴈治郎の来店6
ハアーと香奈子は母を見ながら困惑気味だ。そりゃあそうだ実質は母親がやってる店だ。彼女に訊いてもしゃあないが、好感度を試しただけだ。ご好意だけは受け取られたが、君枝は今のところ人手は要らないと丁重に断られた。最悪、母一人でも十分切り盛り出来るからだ。
「とにかくおでんのセットだけでも置いておけば、具材はうちの店で配達するがどうだろう」
「いやにおでんに拘るなあ」
鴈治郎も小谷の積極的な提案に対して小耳に挟んで来る。木屋町や縄手ならともかく、メニューに少しは腹の足しになる物もあれば、夕食がてらに店にやって来られる。このままでは客単価が上がりそうもない。それを何とかしたいと勧めたが、鴈治郎も君枝も此の店は十和瀬酒造の商品を知ってもらうためのショールーム的存在らしい。商品が広く知れ渡ればそれでいい。あとは君枝の気分次第で、夕食がてらの客などは当てにしていなかった。
小谷にすれば十和瀬から引き継ぎを任された以上は、彼奴より真っ当な仕事をしている、と此の店の関係者に見てもらえれば良い。その甲斐あって鴈治郎には、そこそこ仕事熱心なところを見てもらい、良い印象を持って帰った。鴈治郎が帰ると君枝はカウンター席に居る常連客の相手をしていた。小谷はようやく香奈子とカウンターを挟んでのんびり出来た。
「良かったわね、お父さんに出入り禁止なんて言われなくて」
香奈子は労うように声を掛けてくれた。
「そんなに厳しい人には見えなかったが……」
「お父さんは女性には甘くても男性には余りいい顔はしないのに、今日は愛想が良かったから上々の出だしよ」
そう言われると鴈治郎さんが、いつもより今日は愛想が良かったのは、香奈子さんの着物姿の影響なら、益々彼女が魅力的な人に見えて来た。




