鴈治郎の来店5
「うちの店では酒以外の物も扱い出してね、それでどうでしょうコンビニなんかでやってるおでん、あれは何も出来ない学生バイトでも熟せますからどうてすか一式此の店に置いてやってみませんか」
「オッ、それはいい、確かにあれはこれからの冬場には持って来いで出汁も簡単で日本酒にも合うぞ」
鴈治郎はかなり乗り気だが、君枝に言わすと客が来ない日でも温め続けないといけないから気が抜けない。今の遣り方は客の顔を見てから直ぐに出せるから気が楽なようだ。鴈治郎も長いホステス暮らしの君枝に、居酒屋は似合いそうもないが、一応は小谷の提案に乗ってみたのが本音のようだ。
テーブル席が賑わったのは一時間ほどだ。伏見近辺の客ならもう少し居るが、これから電車で花見小路でも繰り出すのだろう。長年祇園界隈の店に居た君枝にも、そんな風に郊外から来る二次会のお客さんを、相手にして判っているようだ。カウンター席も半分になっていた。観光客を相手にするのなら、夕方までは喫茶店にしたいが、それではテーブル席が少な過ぎた。
「どうだろうねぇ、喫茶店にするには狭すぎるし、同じ一時間粘られるのなら珈琲よりもお酒の方が実入りも良いし……」
矢張り昼間より夜の方が客は多かったが、伏見近辺で仕事を終えてから一杯呑んで、電車で帰る客が殆どだ。
「昼間はどうしてるんだ。煙草ばかり吸っていてもしゃないやろう」
と鴈治郎が口説く隣では、小谷が香奈子に店の状態を聞いている。店は家賃は要らないし十和瀬酒造の酒は伝票だけで支払いはない。売れれば売れるだけ十和瀬酒造の宣伝になるからだ。
「なら心配することはないのか」
「そうねー」
「じゃあどうだろう、簡単な料理なら出来るから夜は俺をバイトで雇わないか」




