鴈治郎の来店3
「表向きはなあ、なんせ千夏は灘の酒造会社でも顔が利いたからデスカウントセンターの社長も無下には出来んようだ」
千夏さんは結構やり手なんだ。
「それでもさっき呑んだ酒の販路拡張は難しいのですか」
「だからこうして此処で君枝に頼んで安請け合いしにない輩だと想えば振る舞えと発破を掛けているんだ。此処は灘と競合する日本酒の一大産地だそれを目当てに観光客も来るからなあ」
「それよりお兄さん達は上手くやってるの?」
そこで香奈子に、テーブル席から声が掛かったが、君枝が、此処は手が離せないと客の求めに応じた。
「長男は良いが次男はさっきも言ったように何を考えているのかサッパリ解らん男だ」
十和瀬の奴、親子断絶状態か。それで希実世さんが奔走しているのか。世話の焼ける男だ。
「でもああ謂う視野の広い人間も時には必要ですよ」
「広すぎて役に立たないんだ」
その典型があの女房の希実世らしい。
「全く周囲を考えずに自分達の生活だけ考えている」
「でも子供が来年出来るそうですから、それじゃあないですか……」
「わあー、そうなの。お父さん初孫」
香奈子が茶化した。
そんな話は聞いてない。俺より先に何であんたが知っているんだ、と強い口調だが。これとは逆に鴈治郎は破顔した。
「みっともない顔、でも昔はこれでお母さんを参らせたのね」
「そうでもないわよ」
賑わうテーブル席に追加のつまみとお酒を補充した君枝が戻って来た。
君枝にすれば、祇園でお歴々方と一歩も引かずに押しまくった、あの売り込みの姿勢にグラッと来て、今の破顔はその付録に過ぎないらしい。鴈治郎に言わすと、女も押しの一手で惚れたら引くな、が信条だ。そうでないと二人の女を平等に愛せない。ひと世代前なら世間体を無視してでも通用できたが、昨今の時代には世間では刃傷沙汰より離婚に成りそうだ。




