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香奈子の誘い1

 今は反物の幅一杯に桜並木を描いている。総柄だから縫い目は気にしなくていい。先ず淡い鴇色ときいろを反物に描き、それに薄い紫がかった桃色から濃い臙脂色えんじいろまでが斑に細かく画かれていた。花々の境目や空白には白い練り胡粉を盛り上げるように塗り上げていた。長い反物と交差するように、横一杯に描かれた桜並木を支えるように、間隔を空けて桜の立木を描き込めば一つの柄が出来上がる。これを交互に向きを入れ替えて連続して反物の端から端まで画けば、満開の桜並木が続く総柄の着物が出来上がる。プリントと違うところは同じ桜並木だ。矢張り素描きだと微妙に色や筆遣いの違いが出て、同じ柄の連続でありながら、じっくり観察すると微妙に違う。付け下げと違ってメインとなる柄がなく、全体に目立たないように均等に同じ柄を続けて描き込む。これは単調になりがちだが、長い反物に描き終わった頃には、最初と最後で微妙な変化は有っても、大きく柄が崩れてはいけない。これも矢張り時々は描き終わった柄を見ながら、大きく変わらないように修正しながら描いていた。

「これは同じ柄の繰り返しだから馴れれば楽でしょう」

「馴れればかえって逆に柄が大きく変わらないようにしないといけないから、気を抜けないのは付け下げと変わらないけれど、総柄の着物は合わせ目がないから話しながら画けて楽だわね」

「なるほど。それで千夏さんは十和瀬家の反対を押し切って香奈子さんを披露宴に呼ぶ処が凄いですね」

「反対したのはあの先代の女将さん一人だけですから、でもちょっと目立ち過ぎちゃった」

 とベロッと舌を出した。あの歌も宴会のお披露目では、香奈子さんへの印象も悪くなかったが、君枝と古女将とは対立が激化して、幸弘の時は辞退させられた。


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