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香奈子と千夏1

 希実世さんとの恋で知ったのだろうか。ならば僅かな残り火でも再生するかと訊ねた。

 残り火から燃え上がればそれが本当の恋だ。試練を乗り越えた二人が辿り着けたのがその証しだと、十和瀬は言って退けた。じゃあ希実世さんとはもう一波乱あるのかと尋ねても、ないときっぱり言い切った。なぜだと問えば、子供を宿した者に恋の復活はないと寂しそうに話した。遠ざかる彼奴あいつの後ろ姿がそれを物語ってる。

 十和瀬酒造の仕入れ先は此処からそう離れていないスナックだ。

 此処はいつ来てもおかしな店だ。利き酒なら暖簾を潜って入る店だろう。それが押し開きするガラス戸で、中のカウンターも客との仕切がなく、ガスコンロにフライパンしかないからパスタぐらいしか出来ない。あとは冷蔵庫から出来合いのものを出してくる。カウンターの後ろの棚には伏見の酒が豊富に揃っていた。一応在庫を見て品物を入れるが、注文もそこそこに直ぐに二階へ上げて貰う。

 今日の香奈子さんは白生地を前にして、別の素描き友禅に没頭している。それを向かい側で邪魔にならないように小谷は会話を楽しむ。素描きに差し障りのないように、世間話から入りながら、話題を菜摘未に持っていった。

「此の前の話だと菜摘未のサッパリした性格はいいけれど、度が過ぎると困ることもあるそうですね」

「そんなこと言ったっけ」

 でも目は笑っている。

「お兄さんを十和瀬酒造に引き戻す時に、僕を此処の新しい御用聞きにする話、あれは本当に菜摘未がけしかけたと思ってるんですか」

「ハッキリとは知らないけれど菜摘未さんの性格だとそうではないかと思っただけよ。でもそれって小谷さんにとっては大事なことなの?」

 これには慌てた。

「いや、べ、べつに、さっきも会ったけど、十和瀬の奴が本格的に酒造りを始めたいのか、あの蔵に最近籠もっているけどどう言う心境の変化だろう」


 

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