十和瀬の話を聞2
「それで希実世さんとは上手く行ってるのか」
希実世さんの訴えを千夏さんが上手く取り持ってくれた。これでお前にすれば妻を粗略には扱えない。それが分かり切っているのか、硬い表情を中々崩さなかった。
「いつまで酒樽を睨んでいるつもりや」
十和瀬は腕組みを解いで、前垂れを外すとキチンと畳んだ。
「まだ此処で油を売っていて良いんか」
「お前と違って俺は会社からかなり信頼されてる」
ひと言云いすぎたのか十和瀬は渋い顔をしたが、直ぐに含み笑いをした。
「朝から籠もりきりで疲れた。少し陽に当たるか」
と前垂れを大西さんに返すと、蔵の外へ向かって歩き出した。十和瀬は薄暗い蔵から一歩出ると、目を細めて眩しい初冬の光を全身に浴びた。二人は母屋には上がらず、そのまま横の細長い土間を通り、店のパートのおばさんに暇乞いをして表に出た。
「千夏さんに聞いたが、どうしてお前から会長や社長に復職を直接頼まなかったのだ。希実世さんが動くまでほったらかしにするなんて……」
「菜摘未の奴が反対したんだ」
「ハア? どう言うこっちゃ」
「お前が俺の代わりにあの『利き酒』にしょっちゅう行くようになるからだ」
「それは菜摘未からあの日呼び出しを受けた時に解って承知したんだろう」
「表向きはなあ」
菜摘未の考えは、中途半端にズルズルと香奈子と付き合うより、キッパリと彼女から振られるのを待った方が得策だと判断したようだ。
「菜摘未も大した自信だなあ」
「だからルンルン気分の相手も振ったんだ」
民家が建ち並ぶ通りから、大手の酒造会社が建ち並ぶ疎水縁の路に出ると、藏街に沿って歩き始めた。初冬で人通りは少ない時期でも、矢張り此処は若い観光客とおぼしき人がパラパラと目に付いた。




