千夏の話3
「男と女は、小谷さんと幸弘よりも一本違う溝が横たわっているからよ」
「何ですかその溝は? 深いんですか?」
「さあそれは心の溝ですから物差しでは測れないわね、測れたら揉め事もスッキリ解決するけれど」
「どんな風にスッキリするんです」
「早い話が離婚、でも大抵の男女の溝は推し量れないから別れられない人が多いんでしょう。直ぐに埋められるかも知れないと思って引き摺るから」
「それは大坂城の和睦の条件より難しいですね」
「そうよ、男女の仲は得体の知れない魔物が棲んでいるから」
彼女は最後は声色まで使って説明する処が茶目っ気タップリで、何処までが本心なのか掴めない。
「でも小谷さんは菜摘未さんを誤解したらいけんよ」
「ハア? 誤解しているのは向こうだろう」
「それでよくもまあ、女ごころを掴めると思っていたら大間違いよ」
あの人の気性の烈しさは負けん気にある。自分に無いものを見付けるとそれを克服したい。そんな意地から来ている。
「でも俺が香奈子と付き合っていても寛容に視ている」
「試しているのよ。香奈子さんが本気で惚れるか。菜摘未さんは若いだけに余裕で試しているのよ。それだけ貴方は難しい人を相手にしているってことよ。人は頂点を見極めようとする人と見極められない人に二分される、で、此の人はどっちなのかと見定める。香奈子さんはそう言う人よ。菜摘未さんはどっちでもない。強いて言うなら見極められない人」
「なぜ菜摘未をそう言い切れるんです」
「あの子の口から聞いたから」
十三年前かしら、菜摘未さんが小学生の時に買って貰った自転車には不満だった。あたしも大人のが欲しいと、無理に乗って怪我をしたときに、お見舞いに来た君枝おばさんを見て、面倒な女が来たと思ったそうだ。




