香奈子の場合4
以前より付け下げ着物は、訪問着より柄が控えめだった。人気が出ると柄の繋ぎ目を合わせて、襟から肩、上前身頃からおくみ、後ろ身頃と模様を広げて派手になった。それで最近では見違えるような上品な訪問着になっている。
反物は決まった長さで切り、あとで次々と縫い合わせて一つの着物になる。香奈子が今描いている長い反物状態の付け下げ着物は、上前身頃とおくみに、後ろ身頃と柄を縫い合わせたときに合うように繋ぎ目には、色と柄が同じに成るように描いている。描きながら時々は筆を止めて、上に連なっている模様部分と見比べながら描いていた。着物の上前に大きくて派手な柄模様を描くと、それだけ合わせ部分も増えて、ひとつの柄に違和感なく仕上げるのが大変になる。だが香奈子は慣れた手付きで難なく、花弁や枝葉の色や位置を寸分狂いなく仕上げ終えて、次の新しい反物と掛け替えた。
「どう、ちょっと散歩でもしない?」
「息抜きなら良いでしょうね」
一緒に歩きたいと逸る気持ちを抑えて返事をした。
二人は店を出て、宇治川から引き込んだ疎水縁に、大きな酒造会社の酒蔵が建ち並ぶ簡素な道沿いを歩いた。
「今の素描き友禅はいつからやってるんですか」
「ずっと絵が好きで、美大を卒業すると親戚の伯父さんの伝で照会してもらって三年ちょっとかなあ」
「絵が好きなんですか」
「お母さんがああいう人だから、いつも独りで留守番して本もよく読んだわよ。でもお母さんがこの店を任されてからは外に出ずにずっと家に居て、お陰であたしも此処へ引っ越してから近くの宇治川へスケッチブックを持って良く出掛けたのよ」
「それは菜摘未のお陰ですね」
「あら、どうして知ってるの」
「妹の自転車事故のお陰で、おやじの失態を知ってからだと十和瀬が言っていた」




