十和瀬幸弘2
気怠さの残る男だと考えながら近付いた。向こうは早々と着いたらしく、手持ち無沙汰に煙草を吸っていた。十和瀬の足元に落ちた吸い殻の数でそれが分かった。
「待してすまん」
一応は長い付き合いから生じた感情を抜きにした顔で詫びた。小谷はこんな時でも寝坊したとは絶対に云わない。ちょっと今朝の寒さに驚いただけさと言って退けた。
相変わらず十和瀬は、いつものぶっきら棒な面を表に出して来るが、そんな挨拶なんてどうでもいいと云う顔をして歩き出した。
此の前までの夏日を思えば今朝は十一月では珍しくない十度台だ。数日前を思うと寒すぎる気温だ。まあそれでも小谷の顔を立てて「それで遅れたのか」と十和瀬はやっと納得したのか、この時、初めて頬を緩めた。釣られた小谷も愛想笑いを浮かべ、歩幅まで合わせて鴨川に架かる橋を渡り出した。
「処でどうして俺がお前を連れて行かなきゃならないんだ」
待ちくたびれた様子もなく十和瀬は訊いて来る。これだから此奴とは縁が切れないんだと小谷は胸の中で寂しく笑った。
「そうだなあ、それよりお前とは十五年の付き合いになるか」
「高校からならそうなるだろう」
何で今更そんなことを聞くのか十和瀬は怪しんだ。だいたい此奴はつまらないことはペラペラ喋るが、肝心なときはすっかり身構えて仕舞う男だった。それでも小谷からどんな嫌な目に遭っても最後は「どってことないさ」と笑って誤魔化してくれる。その時の十和瀬の複雑な思いを、これで相殺してくれると思うと堪らなくなる。これが十五年も二人の心を繋ぎ止めていた。




