妹の話3
十和瀬は決断力には乏しいが人情には熱い。高校時代、小谷の正当な遣り方に不満のある奴らから、いじめに遭うのを十和瀬が悉く相手になっていた。十和瀬の正義感に小谷も応えた。しかし向こうが手を出さなければ、おそらく十和瀬は何もしなかっただろう。そこが唯一の気がかりだった。案の定、妻からの最後通告がなければ自分からは動かなかった。
「じゃあ奥さんはお前にはまだ熱があるって言うことか」
「そうじゃあないわよ。希実世さんは来年子供が生まれるって泣き付いてきたのよ」
実家で頼るのは菜摘未しかいないからあたしに電話をしてきた。
「そんな話をお前より妹が先に知るなんて、それまで知らなかったのか。まあ昔からとことん追い詰められないと動かない奴だとは思ったが……」
「でもあたしよりも千夏さんの方が物わかりが良いのに、もっと家の家族と付き合うようにしないからよ。まあ希実世さんにすれば結婚相手の妹だからと色々とあの時はあたしに相談したけれど……」
希実世さんが家族に対して認識不足なのは、兄のせいだと言っている。取り敢えず千夏さんが、幸弘さんに対しては通いで来てもらう。来月の仕込みで大変な時だけ兄に泊まってもらえば、専務待遇で来て貰うと話を付けてくれた。それで希実世も何とか納得したが、そこで辞める会社に俺の穴埋めに小谷を推薦した。これが菜摘未からの回りくどい呼び出しだった。
「オイオイそんなの勝手に決めるな」
「お前に取っちゃ悪くないぞ」
取引先として我が家の出入りは自由になる。一番の良さは俺の伝を頼らなくても香奈子の店へ酒を卸しにいつでも立ち寄れる。それにあの会社は酒以外の物も扱う予定だから、まして店の茶碗やコップは割れるから消耗品でお前ところで補充が出来るだろう、と益々魅力的に話を持って来る。これは小谷に取っては願ってもない吉報になった。




