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十和瀬の実家3

 大学時代はテニスをやっていて髪は邪魔だと切ったが、男を振ってからまた伸ばした髪が両肩に靡いていた。今日は珍しくパンツルックでなくスカートだ。しかもタイトスカートにスーツだ。何処かの社長秘書と間違えそうだ。

「何だその服装は」

「これ、千夏さんが前の会社で着ていて事務所でいつも伝票を整理していたのよ、似合う?」

 千夏は、その経理能力を会長が認めて孫の長男の嫁にしたが、矢張りルックス、見栄えが良かったと、あの浮気親父と十和瀬幸弘は今も思っている。

「千夏は酒造所の若女将わかおかみでいつも着物だろう」

「だから此処へ嫁ぐ前までは此のルックスだったのよ」

「まあいい、お前こそ小谷を呼び出して何の用だ」

 十和瀬は此の妹の変わりように半ば呆れている。

「それよりさっき、店の中で言ってたその話なら聞いているわよ」

 菜摘未も香奈子からその相談を受けていたそうだ。それともう一つは幸弘の奥さん、希実世さんから聞いた復職願の件だ。

「復職願なら千夏さんに説明して事務的なことなら社長も会長も女将さんである千夏さんに任せているから」

「ハア? 千夏はまだ此の家に嫁いで数年だろう」

「何言ってんの、お兄さんが結婚で抜けてから千夏さん大変だったのよ」

 とにかく新米を精米して蒸しが終わって、これからのひと月は酵母を発酵させるのにかかりきりで家は忙しい。だから此処では、のんびりとそんな話は御法度とばかりに、菜摘未は近くの喫茶店へ誘った。

 三人は店を出ると、駅と反対にある寺田屋旅館の方に向かって歩いた。あの旅館は坂本龍馬が定宿じょうやどにしていて結構観光客も多く、それなりに凝った若者向けの店が多かった。菜摘未も君枝のスナックの在る大手筋通りより、反対方向の龍馬通り商店街へ向かった。


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