十和瀬の実家2
「実は此の前に来た客と一悶着したんだ」
どうやら観光客が来てウイスキーを頼むと、此処は日本酒しか置いていないと突っぱねた。それで客は怒って「スナックだろうそれはおかしいふざけんな」と騒ぎ出した。
「そこでたまたま居合わせた俺が此処は伏見の酒処、それを承知で来ているのならそんな野暮なことは言いっこなしですよと、ちょっといかつい顔で言ってやると恐れをなして、それもそうだなあと先の主張を引っ込めたんだ。俺はそんな男に見えたのが不思議とは思わんか」
「観光客だろう、伏見と聞いてやって来たのはいいが急に容赦なく洋酒が呑みたくなったところに、スナックの看板が目について飛び込んだのだろう」
そんな奴が何しに伏見にやって来るんだ。頭を冷やせと言いたい。俺もあの看板は前から直した方がいいが、香奈子は「お母さんはずっとスナック勤めで料理が出来ないのよ」と言われてしまったら処置なしだった。
「そりゃあそうだろう。十和瀬、あの店だけど、ありゃどう見ても日本酒ばかりで洋酒がなければ酒に合う煮物、焼き物の料理メニューを作らないとスナックか居酒屋か判らんだろう」
あそこで出るのはピーナッツ類にサラミにチーズ、生ハム、フルーツ、チョコポッキー、クッキーどう見ても居酒屋風にさえ及ばない。
「でも、あのカウンターと少しだがテーブル席もあるだろう」
「そうじゃない、スナックは若い子が酒の相手をするんだろう。香奈子さんはいつも注文を取るだけで、それ以外はカウンターから出ない。第一ボトルは日本酒ばかり。そんなスナックがどこにある」
「だからあそこにあるんだッ」
「もう、いつまでそんなくだらないお喋りをしているの」
奥から菜摘未が出て来た。目元は似ているが瞼は半月以上に見開いている。それがクリッと光彩を放っている。




