香奈子を誘う2
「ちょっと聞きたい事があるんだけど。こないだまで境田と、ああ、此の前に龍馬像の船着き場で会った人」
「知ってるわ、その人どうしたの?」
菜摘未の使い走りをさせられてしまって、二人とも今は往生している訳を話した。
「そうなの? あの人、彼女の、何が問題なの?」
お互いに相手の彼女とは、干渉しない約束と言うか取り決め事を説明した。
「それなら別に問題ないわよ」
とこうして香奈子さんと親密になれば、境田は何も言えないだろう。
二人は休日で人通りの多い河原町通を北へ向かって歩いた。香奈子にしてみれば日曜は混雑するのが目に見えているだけに、独りの場合はほとんど来ない。それだけに今日の混み具合にはうんざりしている。
「どこへ行こう?」
人混みに歩き馴れない香奈子に気付いて、やっと小谷は人混みの鬱陶しさに辟易したようだ。
「鴨川にはユリカモメが乱舞していたわよ」
「じゃあ、いつもバンクズを投げ与えている、あのおばさんが居たのか」
「あらそうなの、あのおばさんは有名なの?」
「十和瀬の話だとそうらしい」
此の辺りまで歩くと、さっきまでの香奈子さんを待つ不安が、一気に消し飛んだ。これで境田に盛んに進展をアピールした肩の荷がやっと下りた。
彼女ともっと親密度を増すためにはどこへ行けば良いか。彼女は着物に関心があり、絵その物が好きで着物の柄になる絵を描いていた。彼女が今まで勧めてくれたのは、なぜか文学小説ばかりだ。本屋さんか図書館では、彼女とゆっくりとお話が出来ない。そうだ、十和瀬に紹介されて最初に伺った時に、彼女は音楽を聴きながら、反物に素描き友禅をやっていた。
「最初の頃はドン・マクリーンの『アメリカン・パイ』を聴いていましたね」
「良く憶えてるわね」
嬉しそうに返事をされて、うろ覚えなだけに当たりー、と胸が弾んだ。あの時はそれで暫く話が進んだ。調子がいいのか筆運びまでが軽くなっていた。




