境田の想い5
「どんな想い出でも俺にとってはかけがえのない二人だけのものなんですよ。小谷さんもこれから築こうとすれば分かるはずでしょう。だから手助けをしてくれるのなら何の文句も言わないが、邪魔立てするようなら、あなたたちの恋にも罅が入るように出来るんですよ」
境田の場合、脅迫でなく実に切ない訴えに聞こえる。鍵を握る菜摘未の心の中に、どんな形にせよ立ち入れるのは、私だけだと言って退けた。これ以上は深入れしない方が、お互いには都合いいと暗に忠告している。
「解った。境田さんの好きにすれば良い」
そうは云ってもおそらく菜摘未は生易しい相手ではない。
「それで小谷さんはどうするんです。菜摘未さんとは会ってないし、これからも会うつもりもないのならハッキリとあの人の前で示して欲しい」
あの人の前で示して欲しい? こっちは香奈子と付き合ってハッキリしているのに心許ないと云うのか。好きと嫌いをハッキリと振り分けろと言いたいのか、それは菜摘未に言ってくれ、と境田を仰ぎ見た。
「解った。そうしょう」
取り敢えずは此の男を納得させるように答えたが、まだ何か物足りない表情を漂わせている。取りも直さず彼女次第ではどうにもならない。境田自ら菜摘未の横っ面を叩いてでも、振り返らす勇気があれば小谷も同調できるが。
「それで菜摘未の提案については、千夏さんが引き継ぐので一切係わらない方が良いでしょう」
「そうですね菜摘未さんもそれほど遣りたいとは思ってないでしょう。ただの副産物程度にしか思ってないようですから」
何の副産物なんだと云いたいが、目の前で彼の顔を見たら馬鹿馬鹿しくなって、思わず笑って仕舞った。
「さっきの言葉やけど、それをそのまま境田さんに返したい。ハッキリとあの人の前で示して欲しい」




