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境田の想い3

 就職戦線に落ちこぼれて大学を出てからは、何の技術も身に付かない営業に愛想を尽かしていた時に、菜摘未さんからメールを貰った。彼はスマホ取り出してその記念すべき着信を今も大事そうに保存していた。これですと見せてくれたが、何処にでもある「今度会わないかしら」と云う普通の着信メールだが、音信不通で想いを寄せた人からの第一報が来れば、これは記念すべき宝になり得るのだろう。将来怨念の元になるかは本人次第だが。そう思っているうちに境田は嬉しそうにスマホの着信画面を閉じた。

「大学では顔を会わすことがあっても、短い言葉だけを交わしていた人と肩を並べて初めて歩けるようになった記念のメールです」

 彼はスマホを大事そうに閉まった。小谷は一部始終を見て、頬を緩めた境田の顔を見てふと思った。此の男は菜摘未が渡した切り子細工のコップを見本として受け取ったが、今では菜摘未からのプレゼントとして見つめ、酒と共に酔いしれてる。そんなイメージが今の着信画面を披露した顔と重複した。

「あの切り子細工のガラスコップやけど、千夏さんがどんなもんか知りたがってるんやけど……」

 それでも言ってみたが、手許から離しそうもない。

「無理なら分かりやすく写した写真でええさかい、僕のスマホに送って欲しいんや……」

 それで境田の表情が少しは氷解して確信を得た。

「千夏さんは此の話を進めるんですか?」

「菜摘未の魂胆は解ったが、それとは別にあの酒の売り上げ増進に成るのか、検討しているそうや」

 そうですか、とまた少し不安げに見詰め返された。だが今度はメールやコップでなく龍馬像の伏見の船着き場で会った香奈子について訊かれた。

「あの時は仲が良さそうだったんですが、進展してますか?」

 ハア? 急に何を言い出すのか此の人は。でも何かに取り憑かれてないか。

 


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