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千夏の考え8

 子供時分はみんな酒造りに追われて誰も相手にしてくれない。そんな時、唯一の遊び相手は兄の幸弘だ。今は同じ背丈だが、子供の頃は少し違うだけでも、身長には十センチ以上の差があった。当然、菜摘未には補助輪の付いた自転車を嫌がった。兄の自転車には足が届かないが走り出したらそんなの気にならない。止まるときは大抵横倒しになって兄を呼んで起こしてもらっていた。兄が高校生になった頃には、兄の手を借りずに独りで遊びだした。その頃に兄が家によく連れて来たのが小谷だった。最初は兄以外には余り喋らずに取っ付きにくそうだが、小谷が大学卒業間際になると、やたら妹は小谷と喋りたがった。これが千夏が幸弘から聞いた菜摘未だ。

「菜摘未さんが高校生になると小谷さんは家に来なくなったのね」 

「働き出すと小谷さんとは外で待ち合わせて家には余り来なくなっちゃって」

「それで気になったの」

「兄が小谷さんと会うときは無理矢理連れて行ってもらった」

 幸弘の話だと、菜摘未が大学に行き出してからは、兄を利用して小谷と会っていた。

「のこのこ付いて行くなんて、ようそれでお兄さんをどう納得させたん?」

 兄には貸しがある、と妙なことを言い出した。

「なにそれ?」

 菜摘未は何か勿体ぶって中々言ってくれない。やっと聞き出すと、どうやら希実世さんとのデートを取り持っていたのだ。エッ! とこれには驚いた。

 なんせ兄は口下手で、意識すると中々言い出せず、最後はあたしが同席して「希実世さんに大事な要件があって来てもらったんでしょう」これには希実世さんも、何なのって兄に問い詰められて「もうじれったいプロポーズするって言ったでしょう」とあたしが云うと、希実世さんは大笑いして、実に滑稽な告白劇になったが、あのままだと一生兄は言い出せないと思った。

「へえ〜、幸弘さんがねー。そんな大舞台で上がって仕舞うの、いつも気兼ねなく喋っている人が、でも好きな人やと意識してダメになるんだ。ふーんそうなん」


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